先日、南アルプスに川釣りに行って、左肩の脱きゅうと打撲で全治1カ月余の大けがをした。
僕は釣りが好きである。かつては海釣り一辺倒だったが、海まで遠いイタリアの内陸部に居を構えてからは、近場の湖や川での釣りも覚えた。
今回は森林監視官で秘密の釣り場を多く知っているイタリア人の友人と2人で出掛けた。クマも出没する2千メートル近い山中である。
険しく、緑深い絶景が連なる清流を上るうちに、なんでもない岩に足を取られ転倒した。肩に激痛が走り僕は一瞬気を失い、身動きができなくなった。救急ヘリを呼ぼうにも携帯電話は圏外で不通。たとえ飛んできても救助は無理と思われる深い谷底である。
友人に担がれるようにして沢の斜面をあえぎあえぎ登り、獣道(けものみち)のような細い道に出た。そこで彼が車を取りに行き、僕は悪化する肩の痛みとクマの恐怖におののきながら、道脇に2時間近くうずくまっていた。
以来1カ月、僕は上半身をぐるぐると包帯で固められ、自分の書斎にこもりきりである。
書斎は自宅のブドウ園に面していて、今年は8月6日に始まったヴェンデミア(ブドウの一斉収穫)の様子をそこの窓から眺めた。本来は9月末のヴェンデミアは温暖化のせいで近年は異常に早くなった。地球は確実に何かに侵されている。
同様に、何でもない岩に足を取られて転倒した僕の体も、温暖化ならぬ老化現象に侵され始めたのではないか、と窮屈で暑い上半身に少し憂うつになったりもする日々である。
(仲宗根雅則・イタリア在住、TVディレクター)
【島人の目】人生いろいろ
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琉球新報社
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