【島人の目】美しい国


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 イタリアの別名は「ベル・パエゼ」という。この国を訪れるイギリスやスカンディナビア各国やドイツなどの北部ヨーロッパ人が言ったのが始まりで、それはずばり「美しい国」という意味である。
 どこかの国の冴(さ)えない総理大臣が、国粋主義をオブラートに包んで国を造り替えて、それを勝手に「美しい国」と呼ぼうとしたのとは意味合いが違う。
 イタリアはその愛称の通り美しい国である。地中海のまぶしい太陽が降り注ぐ半島国の北部には、絶景のアルプス山脈が連なり、折々の風情が豊かな四季が南端のシチリア島までを包み込む。また半島の全体には、ローマやフィレンツェやベニスなど、芸術作品に満ちあふれた古都が数多く存在する。
 この「美しい国」を形作っているもろもろの根底にあるのは多様性である。イタリアは北から南まで各地方が独立国と言ってもよいほどに違う顔を持っている。それはこの国がかつて、都市国家と呼ばれる大小の国々に分かれて存在した歴史の名残である。
 イタリア人は今もって、誰もが自らを出身地にちなんでローマ人とかミラノ人とかナポリ人などと規定し、信じ、生活し、お互いにそう紹介し合う。
 地域ごとに違う文化や考えや歴史を持つ人々が、そうやってお互いに「わが道を行く」という生き方を貫き通す結果、カラフルで多彩な行動様式と、あっと驚くような独創的なアイデアが国中にあふれる。「多様性」は、独創の母であり、イタリアを「美しい国」にしている最大の要因なのである。
(仲宗根雅則・イタリア在住、TVディレクター)