僕はミラノにある自分の事務所を基点に仕事をしている。番組編集などで徹夜仕事になった場合はそこに泊まったりもするが、基本的には毎日車で40分ほどの自宅に帰る。自宅はイタリア特産のシャンパン「スプマンテ」の里として知られる、のどかな田園地帯の中にある。
ミラノでの仕事に疲れて帰るわが家は既に十分にほっとできる場所だが、さらにもう少し気分転換をしたい時には、僕はミラノから自宅とは反対方向に30分ほど車を走らせる。するとそこはもうスイスである。つまり僕の仕事場からは、自宅よりも外国のスイスの方が近いのである。
しかし僕がわざわざ外国まで気分転換に行くのは、距離が近いというのが理由ではない。そこがスイスだから、僕は気分転換に向かうのである。
スイスは町並みが整然として小ぎれいで清潔な上に、人を含めた全体の雰囲気が穏やかである。
僕が行くのはせいぜいルガノやロカルノなどのイタリア語圏の街で、湖畔の街頭カフェやリゾートホテルのバーや木々の緑に覆われた街外れのビアガーデンなどでのんびりする。そこではミラノにいる時と同じ言葉でやりとりをするのだが、イタリアにいる時の人も自分もいつもそう状態で叫び合っているかのような騒々しさや高揚がない。雰囲気が静かで落ち着く。
要するに僕は肉やパスタのようにこってりとしたイタリアの喧騒(けんそう)が大好きだが、時々それに飽きて、漬物やお茶漬けみたいにあっさりとしたスイスの平穏の中に浸るのも好きなのである。
(仲宗根雅則 イタリア在住、TVディレクター)
【島人の目】気分転換
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琉球新報社
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