【島人の目】ゴアの方舟


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 悪行を働く人間の増加が神の怒りに触れ、地球上にあるものは全て洪水で消滅した。その時、唯一救われたのがノアとその家族たち。ゴア氏のノーベル平和賞受賞の契機となった「不都合な真実」が米国で初めて公開されたのは昨年5月。大都市限定だったが若者の間でまず火がつき、あっという間に全米へ拡大した。
 そんな中、いつしかゴア氏は、大洪水の危機を人々に知らせようと奔走したノアに例えられるようになっていった。
 ゴア氏のある支援団体が米大手紙に「米国はあなたを必要としている」という全面書簡を掲載したように、アメリカでは再びゴア氏出馬待望論が盛り上がりを見せているが、ゴア氏はあらためて環境問題へ取り組む固い意志を示した。
 ノーベル平和賞ももちろんだが、ゴア氏の最大の功績は、世界中の若者たちを立ち上がらせたことだ。自身が立ち上げたNGOや温暖化防止活動参加を呼び掛けるコンサート、また2005年に創立したケーブルテレビ局など、スタイルの異なる各媒体を通して、個々に何ができるかを訴え続けている。
 世界最大の温暖化ガス排出国である米国の意識を変えたのが、大統領選に敗れた人間というのも皮肉だが、京都議定書をほごにしたブッシュ大統領の姿勢を変えたのは、国境のない舞台での勝利といっていいだろう。
 洪水が収まった後、神は二度と洪水は起こさないとノアに約束し、その印に空に虹を架けたという。ゴア氏が今、心に描く夢は、世界の国々の空に架かる虹なのかもしれない。
(平安名純代、ロサンゼルス通信員)