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自然豊かなパイン生産の村 東村の水事情


自然豊かなパイン生産の村 東村の水事情
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 東村は本島北部の太平洋側に位置する、海とやんばるの森に囲まれた自然豊かな村だ。パインの生産が盛んであるほか、福地ダムなど県民の水がめを抱えているため、「花と水とパインの村」を村のキャッチフレーズとして掲げている。今年、村制100周年を迎えた東村の歩みを紹介する。
 東村は1923年4月、久志村(現名護市)から有銘、慶佐次、平良、川田、宮城の五字が分離して誕生した。村史によると、当時の久志村は南北間の距離が68キロあり、現在の村域は上方(うえほう)と呼ばれていた。一方で上方の住民は村役場との往復に3日かかるなど不便も多く、14年には分村運動が起こった。村名は久志村の東に位置することや、太平洋に面した東の空から朝日が昇ることなどが由来と言われている。
 戦後、村では林業と農業が盛んになり、特に農業はパイン栽培を中心に発展してきた。村内のパイン栽培は52年、パイン千本が平良で試験的に植えられたのが始まりと言われている。パインは2021年度、村で生産される果実と野菜のうち約85%を占め、県内生産量トップクラスを誇る。近年は缶詰などに使う加工用原料のほか、生食用果実の需要も伸びており、特に強い甘みが特徴のゴールドバレルについては栽培研究会の設立やロゴによる他産地との差別化など、村はブランド化に取り組んでいる。
 21年に世界自然遺産に登録された、多様な動植物が生息するやんばるの森も村の魅力の一つだ。東村は総面積の約73%が森林で、戦前には山で伐採された木材やまきを山原船で本島中南部に出荷し、主要な収入源としていた。現在は東村ふれあいヒルギ公園でのカヌーを使った自然観察ツアーの実施や、キャンプなどが楽しめる村民の森つつじエコパークや福地川海浜公園の整備など、豊富な自然を保全しながら観光に生かす取り組みが進んでいる。
 一方、やんばるの森には県内2番目の広さを有する米軍の北部訓練場が隣接している。村内の基地面積は約2260ヘクタールで村面積の約28%を占めており、基地内では対ゲリラ訓練が実施されている。16年には約4千ヘクタールが返還されたが、返還跡地には空包や鉄板など大量の米軍廃棄物が今でも散在しており、日本政府が回収や処理を継続するなど課題も多い。
 東系列と呼ばれる北部5ダム(福地、新川、安波、普久川、辺野喜)のうち、東村には福地ダムと新川ダムが整備されている。中でも福地ダムは水道用水や工業用水の供給、洪水調節などを行う多目的ダムで、県内最大の貯水容量を誇る。ダムは福地川の河口から上流約2キロの場所に1969年、米陸軍工兵隊が建設を始め、72年の日本復帰後は国が事業を継承した。ダムは村の観光にも活用され、自然観察船の運航やカヌー体験を通じてやんばるの自然を間近で体験できる。
 一方、村ではリゾートホテル誘致などによる水需要の増加予測から、村内の水源確保が課題となっていた。村は対策として今年3月、村が持つ福地川の水利権を拡大することで県企業局と合意した。村は2026年度を目標に浄水場改修も進め、新たな経済活動を支援できるよう浄水量を増やす。
取材・武井悠 デザイン・仲本文子 次回掲載は11月19日予定