クリアファイルに1枚1枚丁寧に入れられた似顔絵の数々。色鉛筆の鮮やかなタッチで描かれた絵はどこか温かさを感じさせる。那覇市古波蔵の指定就労自立支援事業所「希望」の根路銘安之さん(55)=同市=は描いた絵を次々に取り出し広げて見せた。
希望に通い始めたのは2021年8月。平日はデイサービスに通う高齢者の介護補助をしている。「同じ病気で悩んだ人と時間をともに過ごせる。話も合う」と充実ぶりを語る。
県内の高校を卒業後、東京や横浜の建設現場で働いた。激務や父の死が重なり、23歳の時、統合失調症と診断された。入退院を繰り返した。「酒に浸るような日々だった」と振り返る。
絵を描くようになったのは30代後半ごろ。自身の幼少期、父が油絵を描いている姿をそばで見ていた。「(父が)絵を描かない日は見たことがなかった」としみじみと語る。
21年には、日本創芸教育の講座を受講し、似顔絵師の資格も取得したほどの腕前だ。似顔絵は芸能人や事業所の職員を描いたものなどさまざま。どの絵も鉛筆で下書きをしてサインペンで枠塗り、色鉛筆で仕上げるという手順を一貫している。絵では目の描き方を工夫しているといい、「瞳の潤いや光に気をつけている」と話す。
サービス管理者の金宮松華さんは「絵に魂がある。感性もよく特徴をうまく切り取っている」と絵の才能を評価する。
絵を副業にすることを目標にしている根路銘さん。今日もさまざまな表情を描く。
(渡真利優人)