役割や居場所が個性をもっと輝かせる
就労継続支援事業B型、生活介護事業を展開する「社会福祉法人 若竹福祉会」。利用者に多様な生産活動の場を提供している。農作物栽培もその一つだ。畑で作業に取り組む利用者の様子を取材。一人一人のより良い役割や居場所を作ろうと奮闘する、職員たちの仕事も知ることができた。
1月下旬、西原町池田にある約600坪の畑に利用者と職員ら計25人が集まった。この日の主な作業は、ニンジンとジャガイモの収穫だ。
作業への向き合い方は人それぞれ。大まかな流れはあっても、これをしなければならない、という決まりはない。見落としてしまいそうな小さなジャガイモを大切に拾い集める人、二股に分かれたニンジンなど不ぞろいの作物に名前を付ける人。どの利用者も表情豊かで、作物や土に触れる喜びも伝わってきた。
できることを広げる
収穫した作物は、利用者たちが昼食をとる「社会就労センターわかたけ」内の食堂と、同法人が経営する「カフェめしギャラリーさまさま」(沖縄県総合福祉センター内)で食材となる。2カ所での調理、サービスに携わるのも利用者たちだ。
この他、利用者たちは、公園の清掃や草刈り作業、同法人が製造販売する「平輪(へいわ)ちんすこう」の工場などにも従事する。就労支援や生産活動は、収益をあげることが第一目的ではない。大事なのは「一人一人ができることの幅を広げること」。サービス管理責任者の瀬底英隆さんがそう教えてくれた。
少しずつ共に歩む
「彼の作業を見てほしい。すごいことなんです」
1週間後、畑を再訪すると瀬底さんがある利用者を紹介してくれた。前回は見かけなかった男性だ。名前はYさん(仮名)。強度行動障がいがあり、同法人のグループホームで生活している。会話でのコミュニケーションは難しく、大人数の中で過ごすのは苦手。少人数で慣れたメンバーと行動できる時に畑に来ることが多いそうだ。
Yさんが取り組むのは、プランターに落ち葉や刈り取った草を入れて運ぶ作業。肥料を作るために畑の一角に集めている。一度に運ぶ量は多くない。数十メートルの動線を何往復もする姿が印象的だった。
同法人を20年以上利用するYさんだが、自ら作業できるようになったのは最近のことだ。彼になじむ役割は何か―。複数の職員が向き合っても、理解を深めるのに時間がかかったと瀬底さんは明かす。長い長い道のりを経て、あの作業があるのだ。現在では、畑での時間が生活にメリハリをつけ、Yさんの行動や情緒面には落ち着きが増しているという。
「Yさんには、言葉だけでなく表情や態度でも『あなたを必要としている』と伝えることを欠かしません」
そう話す瀬底さん。人は自らの役割や居場所を認識することで、充足感を得たり、穏やかな暮らしができる。支援の現場を支えるのは、他者と分かり合うことをあきらめない意思だった。
(津波典泰)
社会福祉法人 若竹福祉会
浦添市前田998-3
TEL 098-877-0664
(2024年3月7日付 週刊レキオ掲載)