出会いに導かれた音楽人生 テノール歌手 沖縄県立芸術大学教授 五郎部俊朗さん


出会いに導かれた音楽人生 テノール歌手 沖縄県立芸術大学教授 五郎部俊朗さん 教授を務める沖縄県立芸術大学音楽学部の大合奏室で、グランドピアノの前に立つ五郎部俊朗さん。男声の最高音域であるテノールの歌声は、聞く人の耳に深く優しく響く 撮影協力・沖縄県立芸術大学 写真・村山望
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

中学教員から歌手、大学教授へ

五郎部俊朗(ごろうべ・としろう)さんは、中学校の教員から声楽家に転身、イタリアで研鑽を積み東京で歌手として活動したという異色の経歴を持つテノール歌手。深い情感のこもった歌声で、クラシックやオペラはもちろん、イタリア歌曲カンツォーネ、日本の唱歌や歌謡曲まで幅広い歌を、朗々と歌い上げる。2012年から沖縄県立芸術大学に赴任、後進の指導に力を注いできたが、この3月で退任。沖縄への感謝を込めて、30日(土)に那覇文化芸術劇場なはーとで「我が心のうた」と題し、日本の名歌を集めたリサイタルを開催する。

テノールとは、男声の最高音域。高く朗々とした五郎部さんの歌声には、深い情感が込められており、心に優しく染み渡るように感じられる。

専門であるクラシックの歌曲やオペラのほか、カンツォーネ、また「赤とんぼ」など日本の唱歌を収録したCDも発表し、歌の魅力を伝えている。

可能性に挑戦

「自分がクラシックの歌手になるとは思っていませんでした」と五郎部さん。

出身は北海道旭川市。歌は好きだったが、クラシックではなくフォークに夢中になり、高校生のころはアマチュアバンドで活躍。全国コンテストで3位を獲得した。同市出身のバンド・安全地帯と同期で、音楽イベントでよく顔を合わせていたという。

五郎部俊朗
五郎部俊朗さん

しかし音楽で身を立てる自信はなく、北海道教育大学に進学。音楽の先生になるため勉強する中で、声楽の魅力に目覚めた。

公立中学校の教員を3年務めた後、オペラ歌手を志し退職。教員在職中に札幌交響楽団と共演した時、指揮者の尾高忠明さんに歌を認められ、「もしかしたら、自分でも気付いていない可能性があるんじゃないか」とチャレンジを決意したという。

藤原歌劇団総監督だった故五十嵐喜芳さんにも「声に光るものがある」と励まされ、1986年、27歳で旭川からイタリアへ。オペラ歌手の研鑽を積み、欧州各地の国際コンクールで数々の入賞を果たした。4年後の90年に帰国するや、藤原歌劇団のオペラで主役に抜てき。プロの声楽家としての人生が開けた。

イタリアから帰国後、藤原歌劇団で主役に抜てきされたオペラ「チェネレントラ」の舞台風景。中央が五郎部さん(提供写真)
イタリアから帰国後、藤原歌劇団で主役に抜てきされたオペラ「チェネレントラ」の舞台風景。中央が五郎部さん(提供写真)

「好きなことをやっていただけなのに、その時々に自分の人生を決めるような出会いがあって、プロの音楽家になることができた。運がよく、恵まれた音楽人生」と感謝の思いを口にする。

沖縄での12年間に感謝

その後、東京で歌手として活躍していた五郎部さんに転機が訪れたのは、2012年。沖縄県立大学の教員を務める知人から、公募を紹介され、応募書類を提出したところ、一発で採用に。伯父(母の兄)が沖縄戦で戦死し、最期を迎えた場所が県芸と近い弁ヶ岳であったことにも、縁を感じたという。

53歳で初めて就任した大学の教員生活には苦労もあったが、先輩から受け継いだものを次の世代に伝えていくのが使命と思い、後進の指導に励んだ。

五郎部俊朗テノールリサイタルにて(提供写真)
五郎部俊朗テノールリサイタルにて(提供写真)

この3月で退任を迎え、沖縄をあとにする五郎部さん。12年間を過ごした沖縄に感謝を込めて、30日(土)になはーと大劇場でリサイタルを開催する。

クラシックの歌唱法をベースにしつつ、歌うのは日本の名歌。「荒城の月」「月の砂漠」などの唱歌から、「青い山脈」「蘇州夜曲」といった往年の歌謡曲、近年の「糸」「いのちの歌」まで、名曲を披露する。「芭蕉布」「涙そうそう」など、沖縄生まれの歌も織り交ぜる。

歌の合間には、得意のトークも展開。「初めてクラシックのコンサートに来る人でも楽しめる、楽しいリサイタルです」と来場を呼び掛ける。

(日平勝也)

五郎部俊朗リサイタル
「我が心のうた 沖縄への感謝を込めて~日本の名歌を歌う~」

3月30日(土) 開場13:30/開演 14:00
那覇文化芸術劇場なはーと大劇場

※未就学児の入場はご遠慮ください

全席自由2000円(当日500円増)
(プレイガイド デパートリウボウチケットカウンター、コープあぷれプレイガイド)

問い合わせ TEL 090-9782-4501(糸数)

(2024年3月21日付 週刊レキオ掲載)