人の歴史と共にあり? ヤールーについて【島ネタCHOSA班】


人の歴史と共にあり? ヤールーについて【島ネタCHOSA班】 ミナミヤモリはホオグロヤモリ、オンナダケヤモリと比べると、住宅など人工物に入り込まず、自然の残っている地域で見られます 写真提供:村山望
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あちこちで見かけるヤールー(ヤモリ)。家の中にいる種類と外にいる種類は違うのだ、と最近聞きました。ヤールーにも種類があるんですね。もう少し詳しく知りたいです。

(沖縄市 たこぱん)

ヤールー、夜になるとうちの網戸にもやってきますよ。そういえば今まで意識して見たことはありません。知らなかったこと、いろいろありそうですね。

ヤモリの種類や特徴について聞こうと、調査員は元県立博物館・美術館副館長の千木良芳範さんを訪ねることにしました。人の暮らしとヤモリの関係、という視点からもお話を伺います。

鳴くのは1種だけ

現在沖縄島では5種類のヤモリが確認されている、と千木良さん。まず大事なポイントとして、屋内にいるか、屋外にいるか、という見方では、種類の判別はできないと教えてくれました。種類ごとの生息場所は隣り合い、重なっているようです。

前置きをした上で、家の中や建物の周囲にいて、明かりに集まりエサを捕るのはホオグロヤモリだと話します。「チッチッチ」という声で鳴くのはこの種類だけなんですつて。

「チッチッチ」という鳴き声が特徴のホオグロヤモリ。都市部でも見かけることのできる種類です。東南アジアなど国外にも分布しています
「チッチッチ」という鳴き声が特徴のホオグロヤモリ。都市部でも見かけることのできる種類です。東南アジアなど国外にも分布しています

「本土の人が沖縄に引っ越してくると、ヤモリが鳴くということに驚く。”沖縄あるある“として言う人がいますよね」

楽しそうに話す千木良さんに、えっ、県外のヤモリは鳴かないんですか? と反応してしまう調査員なのでした(本州などに分布するニホンヤモリは鳴かないそうです)。

ホオグロヤモリに次いで、身近にいるのはオンナダケヤモリ。体に斑点があり、尻尾は扁平。屋内にもいるのですが、こちらの種類は光には集まらず暗い場所を好みます。押し入れなどを開けた時にさっと逃げ出すヤモリがいたら本種の可能性が高いそう。

オンナダケヤモリ。最初に発見された場所にちなんで「恩納岳」の名がついています。ホオグロヤモリに比べると見つけるのは難しいです
オンナダケヤモリ。最初に発見された場所にちなんで「恩納岳」の名がついています。ホオグロヤモリに比べると見つけるのは難しいです

基本的に屋内に入ってこないのはミナミヤモリ。家の庭木など人の手が加わった樹木、林にすんでいるので、身近な種類といえるようです。背中や尻尾に縞模様が入る個体が多いです。

以上3種に加え、主に北部の山地林にすむオキナワヤモリ、確認例は少ないのですがオガサワラヤモリもいます。

人の近くで7千年

「人間が先かヤモリが先か、と言われたら、沖縄にすみ始めたのはヤモリが先ですよ」

千木良芳範さん
千木良芳範さん

そう話す千木良さん。ヤモリは琉球諸島に人が渡ってくる以前からいた生き物です。前述した身近な3種も、もともとは森などにすんでいたと推測します。人との距離が近づいたと考えられるのは、約7000年前から始まる貝塚時代。人間が家を造り、定住を始めた時代です。人のライフスタイルの変化にヤモリも適応した可能性があるそうです。

最近ではヤモリのふんや、電化製品内部への侵入が問題視されていますが、家の周囲の害虫を食べてるという”功績“は見逃せません。都市部でも、自然とのつながりを感じさせてくれる生き物でもあります。「あまり問題点ばかり見ず、おおらかな気持ちで接して」。千木良さんは、自然との共生のヒントも与えてくれました。

(2024年4月18日 週刊レキオ掲載)