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糸満の情景と家族愛 歌碑に サバニ広場 喜納勝代さん16歳ごろ作品 沖縄


糸満の情景と家族愛 歌碑に サバニ広場 喜納勝代さん16歳ごろ作品 沖縄 歌碑の前で記念写真に納まる作者の喜納勝代さん(前列左から3人目)と期成会や地域住民ら=4日、糸満市糸満
この記事を書いた人 Avatar photo 岩切 美穂

 「海を恋ふ 無口な男迎へむと 素足でかける 浜の妊婦は」。糸満市出身の歌人・喜納勝代さん(85)が漁師町糸満の情景と家族愛を詠んだ代表作の歌碑が糸満漁港そばのサバニ広場に建立され、4日、同地で除幕式が開催された。喜納さんは建立に感謝し「糸満の心、誇りを若い世代に引き継ぐのに碑が役立つとうれしい」と語った。

 喜納さんは1938年、市糸満生まれ。少女時代から糸満や沖縄を歌に詠み、寺山修司や井上靖らと交流した。「久茂地文庫」を主宰し、本紙で図書館について連載するなど県内の読書振興にも貢献。92年に琉球新報活動賞を受賞した。

 碑になったのは、喜納さんが糸満高生だった16歳ごろの作品。自宅近くの糸満漁港で目にする漁師の夫婦の日常をみずみずしく詠み、第1歌集「ゆうとい」に収めた。

建立された歌碑を背に「糸満の誇りを若い世代に引き継いでほしい」と語る喜納勝代さん
建立された歌碑を背に「糸満の誇りを若い世代に引き継いでほしい」と語る喜納勝代さん

 歌碑建立は、歌人の玉城洋子さん(79)=糸満市=らが約3年前から計画した。昨年9月に期成会を立ち上げ資金を募り、国外を含む300人余りから寄付が集まった。台座には、戦前の糸満の漁師とその家族らの写真も印刷されている。

 地域住民ら約70人が参加した除幕式で、喜納さんは「除幕を心待ちにしていた。立派な碑で身が引き締まる」と晴れやかに笑い「(糸満を訪れたら)白銀堂の次にこの碑を見て、糸満市場で買い物をして戦跡を巡ってほしい」と語った。

 期成会会長でもある玉城さんは「戦後の貧しさの中で文学に心をとらわれ歌を詠んだ、少女の燃える思いを後世に残したい」とあいさつ。當銘真栄市長は「海人の心を象徴する歌。市の漁業文化を広く伝えることを願う」と述べた。

 父の金城松亀さん、母ヨシさん(共に故人)が歌のモデルになったという比嘉恵美子さん(74)=那覇市首里赤平町=は「白銀堂(いーびんめー)の向かいに当時住んでいて、母は妹を妊娠中だった。漁から朝戻り、午後にまた出漁する父を送り迎えするため、漁港に向かう母の姿を勝代姉さんが歌にしてくれた」と振り返った。

 碑が建つサバニ広場周辺の設計に長男が携わったといい、「孫が造った広場に祖父母を詠んだ歌碑が建つというのも白銀堂の神様の計らいか。両親をしのぶ場が新たにできた」と喜んだ。

 (岩切美穂)