箸作り教室を通して食育を推進
大宜味村喜如嘉でシークヮーサーなどの木を使って箸作りをしている鈴木仁さん。使いやすさを追求した「琉球箸」を開発し、木の剪定(せんてい)から成形、漆塗りによる仕上げまで一人で行っている。箸作りと並行して開催しているのが箸作り教室。体験を通した食育の普及にも力を入れており、心豊かな食事を楽しんでほしいと願いを込め、箸の正しい使い方やマナーを伝え続けている。
箸職人の鈴木仁さんが作る箸「琉球箸」は、持ち手の部分にふくらみがあり、先端部分の「食い先」が四角くなっているのが特徴だ。「手の中で安定し、コントロールしやすい箸。食い先が四角いので、一粒のお米なども確実に挟むことができます」。仕上げには、天然の塗料漆を使用。安全で使いやすい箸作りを追求している。
材料のメインはシークヮーサーの木。かんきつ系の樹木は粘り強く、箸に適した木材だという。チェーンソーやノコギリを持って鈴木さん自ら山に入り、協力農家の余計な枝などを剪定(せんてい)させてもらっている。今まで捨てられていた剪定木は箸の材料に、小さな枝は箸置きにするなど無駄なく活用している。工房を「シークヮーサーの里」として知られる大宜味村に構えたのも、地元農家の協力で安定した供給があるから。週の大半を住まいのある浦添市から通っている。
趣味の箸作りの道へ
栃木県の米農家に生まれた鈴木さん。15歳の頃から実家の農業の手伝いをするようになり、弁当を食べるときはカマやナタの刃で落ちている木を削って箸を作っていた。約45年前に大学時代から通っていた沖縄に移住し、コンピューター会計システムの会社に長年勤務した。2007年、55歳で退職する時、妻の美智子さんの勧めで趣味だった箸作りの道へ。箸製造が盛んな福井県などを訪れ研究を重ね、仕上げの漆塗りの技術も習得した。そうして開発したのが誰にでも使いやすい「琉球箸」。2008年に名護市で開かれた主要8カ国(G8)科学技術大臣会合では、県公式プレゼントにも採用された。
鈴木さんが箸作りとともに精力的に行っているのが食育を推進するための箸作り体験教室。イベントや学校、市町村、山原工藝店(大宜味村喜如嘉)などで開催している。自分の手のサイズに合った箸をサンドペーパーで削り形を整え、アマニ油を薄く塗って仕上げる。体験を通して、手入れ法も身に付き、長く使うことができるという。
心豊かな食事のために
「沖縄では子どもの8割くらいが箸を正しく使えません。そのお父さん、お母さんを見ると、同じようにできないんです」と言う鈴木さん。箸は食べ物を挟む、切る、すくう、刺す、裂き開く、押さえる、なでる、混ぜる、引っかく、巻くなど、二本の棒でさまざまな機能を果たす。良い箸で上手に箸使いができれば、美しい作法も身に付き、心豊かな食事ができる――。体験教室では、箸作りの合間に箸の使い方、箸の機能、嫌い箸(NGマナー)なども伝えている。今まで教えてきた人数は約1万人。お箸の正しい使い方を伝え、多くの人が忘れかけている「心豊かな食事の時間」を広めていきたいと願う。
課題は後継者の引き継ぎという鈴木さん。「(箸作りは)私の生きがい。食育のための箸作りを広めることが願いです。ノーベル平和賞を狙えるんじゃないかと思っている。こんなこと言うと笑われるんですけど、言い続けています」と笑顔を見せた。
(坂本永通子)
工房うるはし
大宜味村喜如嘉2130
ティコラボ会館内
TEL:090―6857―0133
営業時間:10時~16時
定休日:不定休
※訪問の際は要事前連絡
https://uruhashi.ti-da.net/
※商品は、山原工藝店(大宜味村喜如嘉)でも販売
(2024年10月24日付 週刊レキオ掲載)