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カヌー・スプリント カナディアン 當銘孝仁 海外武者修行で成長 力出し尽くし切符狙う <沖縄からパリへ>4


カヌー・スプリント カナディアン 當銘孝仁 海外武者修行で成長 力出し尽くし切符狙う <沖縄からパリへ>4 パリ五輪を目指し、汗を流す當銘孝仁=2月2日、糸満市西崎(小川昌宏撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 古川 峻

 パリ五輪アジア大陸予選を兼ねたカヌー・スプリントのアジア選手権に20日、當銘孝仁(沖縄水産高―大正大出、アーネスト)が挑む。不完全燃焼に終わった東京五輪から2年半余り。その間にプロ転向し、新天地を海外に求めて武者修行を積んできた。全ては集大成と目するパリ五輪のためだ。「悔いのないようにという言葉が、ここまでしっくりくる心境はかつてなかった」。五輪切符を手にする2位以上を狙う。

 以前はカナディアンペアが主戦場だった當銘。沖縄水産高の後輩で長年ペアを組んできた大城海輝とともに東京五輪を目指したが、21年5月のアジア選手権で優勝を逃し、出場権を得られなかった。わずか数週間後に開かれた開催国枠を争う代表選考会でカナディアンシングル1000メートルの頂点に立ち、単独で五輪出場権を勝ち取った。だが、人生最大のレースを二度こなした後、気持ちの切り替えが十分でないまま本番を迎えた。結果は準々決勝敗退。「本当はもっと力が出せた」と悔いが残った。

 一度は引退も考えたが、「このままでは終われない」と現役続行を決意。「続けるからには今までの形を変えよう」と日本代表合宿から距離を置いた。自ら民間企業にアプローチし、アーネスト(新潟県)などとスポンサー契約を結び、この競技では先駆者となるプロアスリートの道を切り開いた。

 代表合宿に参加しない分、練習も自らの責任で行う。国際大会でつくった関係性を生かし、海外遠征に赴くようになった。昨年6、8月と今年1月に強豪のスペイン代表の合宿に加わり練習を共にした。今年2月には日本代表で練習仲間の小松正治と県内合宿を実施。その後、東京五輪金メダリストのキューバ人選手とアメリカで合宿を行った。「1人ではできない強度の高い練習ができている」と手応えを示す。

 海外合宿では練習メニューを共有したり、機具を付けて科学的にタイムなどを測定したり、「信じられないほどオープン」に切磋琢磨(せっさたくま)してきたという。

當銘孝仁(左)
當銘孝仁(左)

 「日本人との練習では分からない自分の駄目なところがたくさん見つかる」と収穫は多い。パドル一かきの水上の伸び具合を課題に挙げ、少ないパドル数で海外選手と同じスピードを出すように意識している。欧米選手と比べると体格では劣るため、「技術だけは世界一になりたい」とパドルが水に触れる身体感覚を研ぎ澄ます。

 海外遠征の成果はすぐに表れ、昨年8月の世界選手権で7位に入った。この成績はアジア勢で2番手だ。20日のアジア選手権でも五輪枠獲得の2位以上に入るチャンスはある。目標はその先のパリ五輪でメダルを獲得すること。「パフォーマンスとしてこれ以上出せないと思った時が最高の瞬間になる。どの程度現実と乖離(かいり)しているのか分からないが、自分の中では毎日、最高の状態がイメージできている」

 東京五輪からリスタートを切り、円熟期に入った31歳。正念場の大舞台で力を出し尽くす。

 (古川峻)


 とうめ・たかのり 1992年12月21日生まれ。糸満市出身。沖縄水産高―大正大出。高校3年の美ら島総体でカナディアンシングル(C1)500メートルで優勝。東京五輪C1の1000メートル代表。2022年4月からアーネストに所属。