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知事の国連演説 沖縄益に大きな意義<佐藤優のウチナー評論>


知事の国連演説 沖縄益に大きな意義<佐藤優のウチナー評論> 佐藤優氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 スイス・ジュネーブで開かれた国連人権委員会において、18日午後5時半(日本時間19日午前0時半)ごろ、玉城デニー知事が演説を行った。

 <(知事は)政府が進める名護市辺野古の新基地建設について「県民投票により明確に埋め立て反対という民意が示されたにもかかわらず、貴重な海域を埋め立て、新基地建設を強行している」と訴えた。「米軍基地が集中し、平和が脅かされ、意思決定への平等な参加が阻害されている沖縄の状況を世界中から関心を持って見てほしい」と呼び掛けた。

 /辺野古新基地建設を巡る訴訟では、最高裁で県の敗訴が確定した。玉城知事は、過重な基地負担を負わされている沖縄に対し、さらに民意に反した新基地建設を強行する日米両政府の不当性を主張し、国際社会の世論を喚起したい考えだ。/軍事力の増強は周辺地域の緊張を高めるとして「県民の平和を希求する思いとは全く相いれない」と指摘した。2016年に国連総会で採択された「全ての人は、全ての人権が保護され発展が実現するような平和を享受する権利を有する」とする「平和への権利宣言」を沖縄で具体化するよう、関係する各国政府へ外交努力の強化を求めた。

 /沖縄県知事が国連人権理事会でスピーチするのは、2015年9月の翁長雄志前知事に続き8年ぶり2回目。玉城知事は、翁長氏が前回用いた「自己決定権」という言葉は盛り込まなかった>(19日、本紙電子版)。

 知事の演説に対して日本政府は強く反発している。

 <玉城氏の発言に対し、日本政府の代表者は「辺野古移設の方針に基づいて工事を着実に進めることが普天間飛行場の早期返還を実現し、住民の危険除去につながる唯一の解決策だ」と反論した>(19日「読売新聞」電子版)。

 この政府代表者も、辺野古の軟弱地盤を埋め立てて新基地を建設することが不可能であるのはよく分かっている。にもかかわらず、新基地建設を強行することが「住民の危険除去につながる唯一の解決策だ」と述べるのはシニシズム(冷笑主義)そのものだ。知事の国連演説に関するインターネット上の書き込みの中にも知事に対する名誉毀損(きそん)、沖縄ヘイトのような内容が多数見られる。

 この日本の状況に鑑みれば、知事が国連で正々堂々と沖縄の立場を表明したことには大きな意義がある。先般の中国訪問、今回の国連演説など最近の知事の外交は、沖縄の利益を体現した効果的行動だと思う。

 沖縄の米軍専用施設過重負担の問題に対する、日本政府や少なからぬ日本人の冷淡な姿勢が近未来に改まるとは思えない。この現実を踏まえ、われわれ沖縄人が「あの人たち(日本人)と今後、どうやって付き合っていけばいいのだろうか。このままの沖日関係をわれわれの子どもや孫の世代に引き継いでいいのだろうか」ということを真剣に考える時機(タイミング)に至っていると思う。

 筆者の腎臓移植後の体調がもう少し回復した時点で沖縄を再訪したい。その時は琉球新報の読者と、今後の沖縄と日本の付き合い方について膝をつき合わせ話し合いたいと思っている。日本との関係においても米国との関係においても、沖縄の自己決定権を確立することが最重要課題と筆者は考えている。なぜ今回、玉城知事の国連演説に「自己決定権」という言葉を盛り込まなかったのか、(何か戦略か思惑があると思うので)この演説を準備した県のスタッフの本音を聞いてみたい。

(作家、元外務省主任分析官)