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高齢化する農業人口、増える荒廃農地 利活用が難航するのはなぜ? 相続で細分化、貸し出しに「抵抗感」も<沖縄DEEP探る>


高齢化する農業人口、増える荒廃農地 利活用が難航するのはなぜ? 相続で細分化、貸し出しに「抵抗感」も<沖縄DEEP探る> ビニールハウスの鉄骨が残る座間味島内の荒廃農地。20年ほど前はメロンが栽培されていたという
この記事を書いた人 Avatar photo 福田 修平

 農業人口の高齢化に伴い、県内の耕作地が徐々に減少している。併せて問題化しているのが放置された「荒廃農地」の増加だ。沖縄の耕地面積は1990年代初めに最大4万7100ヘクタールとなったが、2021年には3万6500ヘクタールまで減少した。荒廃農地は3617ヘクタール。耕作につなげようと取り組み始めた自治体もあるが、土地相続などを経ると活用が難しいという課題も。放置されたままだと外来種の生息地になってしまう恐れもある。

 (福田修平)

 県農林水産部によると就農希望者は多いが、荒廃した農地は地主の相続で細かく分割され、就農に必要な面積が確保できない場合もあり、マッチングが難しい。

■親戚以外には…

 「地権者が誰か特定できなくなっている例も多い」。県の担当者が困惑気味に話す。農地を相続した地権者が県外にいたり、分割相続で狭い農地に権利者が大勢いたりする場合、連絡を取ってやりとりすること自体が困難だ。

 就農希望者につなげたくても所有者が分からない土地は活用が難しく、結局は荒れ果てて放置されることが多いという。

 農地減少の理由は(1)農地を所有する非農家の増加(2)農家の高齢化(3)相続などによる農地活用の難化―などが挙げられる。

 こうした農地を整理するのが県農業振興公社の農地中間管理機構が実施する事業だ。地権者から農地を預かり、区画ごとに整理するなどして集約し、就農希望者に貸し出す。賃料の管理なども行う。事業開始の2014年から累計で951.4ヘクタールの農地を貸し出しているが、年間600ヘクタールの貸し出し目標には届いていない。

 公社農地管理課の内川英幸課長は「農地管理の必要がなくなり、賃料も発生するので地主と新規就農者どちらにも利点がある事業だ」と説明する。一方で「親戚以外に土地を貸したくないという声も根強い。沖縄では農地を貸し出す人よりも借りたい人が圧倒的に多い状況だ」と話す。

 「貸し出しのリスクが気になる。正直扱いに困っている」。一般企業で働く男性は相続した中部地区の農地を持て余している。

 周辺には親族が住み、他人には貸し出しにくい状況だ。荒れると、不法投棄の問題も発生するため、使われていなくても手入れに時間を取られている。「休みのたびに草刈りに行くのが大変。親族の目もあるので管理しないわけにはいかないが、貸し出しも難しく悩みの種。親の世代は一族の土地という感覚も強い。世代が進めば、利活用できるようになるかもしれないけど」とため息をつく。

■知恵絞る自治体

 11年から10年間の耕地面積の減少を地区別に見ると本島北部地区で800ヘクタール(11.8%)、中部地区で740ヘクタール(35.2%)、南部地区で480ヘクタール(5.8%)、八重山地区で390ヘクタール(5.1%)。一方、宮古地区は100ヘクタール(0.9%)の減少にとどまる。

 宮古島市によると、葉タバコやサトウキビ、マンゴーなど農業が基幹産業の一つとして根付き、市民の農地活用に対する意識が高く、農地の相続や貸し借りがしやすい傾向にあるという。

 市は毎年、県外にいる地権者への説明会を開催。県の農地中間管理事業などと連携しながら活用に力を注ぐ。地域農業の振興に取り組む農業士と協力し、農地集積に努めている。就農希望者も多く、農地を借りやすい環境をつくるため住民とも積極的に対話しているという。

 一方、分筆された農地について、自治体も関わる形で改善を目指し始めたところも。座間味村は現在、統計上の農業従事者はゼロ。村内を歩くと荒廃農地が目立つ。

 「農業で村を活性化させたいが課題が多い」。阿嘉島在住で農業委員を務める西田吉之介さんは特産品化を目指し島らっきょう栽培を手掛けようとしたが、農地の権利問題が障壁となった。

 利用を考えている阿嘉島の農地は縦約35メートル、横約70メートルで0.2ヘクタールほど。そこに地権者が55人いる。許可を得た区画から使い始めるが、大規模な生産がいつできるかは分からない。「座間味は『稼ぐ農業』ができる環境がある。誰かが動き出さなければ可能性を逃してしまう。これから地権者を探していく」と前を向く。

 村の担当者は「人手不足などで行政が力点を置けず、農地の問題が複雑化した背景もある」と振り返る。今後は当事者らと協力し、農地状況の改善に着手する予定だ。

■外来種の温床

島で繁殖しているグリーンアノール=9月20日

 座間味村ではメロンなどが生産されていたが、イノシシによる食害などで深刻な影響を受けた。そのため農業を諦める人が続出し、荒廃農地が増えたとみられる。

 荒廃農地が外来種の生息地となっている例もある。特定外来生物のグリーンアノールは、荒廃農地に繁茂している外来種のナピアグラスのほか、放棄されたビニールハウスなどの人工物も生息場所として好み、荒廃農地からさらに生息地を広げてしまう。

 グリーンアノールは、農作物などに直接的な被害を及ぼすわけではないが、繁殖力が高く生態系に及ぼす影響が大きいとされる。座間味の自然環境を変えてしまう恐れも危惧されている。

 環境省慶良間自然保護官事務所の服部恭也さんによると、そもそも農地は人の出入りが多く、外来種が持ち込まれるリスクが高い。管理が行き届かず荒れれば、特に植物の外来種の繁殖地になる可能性が高いという。

 座間味村でグリーンアノール駆除事業を実施する沖縄環境科学研究所の髙柳圭吾社長は「耕作地で外来種は繁殖しにくい。外来種対策としても農地の活用は有効だ」と指摘した。