<金口木舌>静かで深い分断


<金口木舌>静かで深い分断
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 「市民の分断」という言葉に心が痛む。原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定に向けた文献調査の受け入れを長崎県対馬市は拒んだ。比田勝尚喜市長は、島を二分する議論に「終止符を打ちたい」と述べた

▼米軍の新基地建設が強行される名護市、自衛隊の誘致に揺れた与那国町。沖縄は「市民の分断」が幾度も繰り返されてきた。現場で見た分断は、静かで深い印象だ
▼親やきょうだいでも意見が割れ、話せばけんかになるので話題にしない。商売をしていると、賛否のどちらとも付き合いがあるので色分けされないよう気をつける。人間関係が濃い故に、静かに溝が深くなる
▼対馬市もそんな状態だったのだろうか。調査を受け入れた北海道の寿都(すっつ)町や神恵内(かもえない)村はまだ分断が続いているのだろうか。人ごととは思えない
▼どの町も都会から遠く離れ、人口減少や産業衰退の悩みが共通する。国策の恩恵は都会が受け、負の側面は弱い地方が引き受ける。不条理な分断の根源に目を向けなければ、真の終止符は打てない。