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鈴木宗男氏の訪ロ 国や国民利益にかなう<佐藤優のウチナー評論> 


鈴木宗男氏の訪ロ 国や国民利益にかなう<佐藤優のウチナー評論>  佐藤優氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 日ロ関係で興味深い動きがある。<ロシア外務省は2日、ルデンコ外務次官が日本維新の会の鈴木宗男参院議員を迎え、会談したと発表した。昨年2月のウクライナ侵攻開始後、日本の国会議員の訪ロは初めてとみられる。維新は今回、必要な届け出が党に提出されていなかったとして鈴木氏が帰国後、本人から事情を聴いた上で処分を検討する>(4日、本紙電子版)。

 鈴木氏は参議院事務局には海外渡航届を提出している。日本維新の会の内部手続きの問題は、自立した政党の管轄事項なので当事者がしかるべく処理すればよい。

 重要なのは日本の国家と国民の利益に照らして鈴木氏の訪ロをどう位置付けるかだ。筆者は極めて肯定的に評価している。去年2月24日にロシアがウクライナを侵攻した後、日ロ間の国会議員交流が全く途絶えている。日本政府はロシアを非難し、制裁を科しているが、ロシアへの渡航を禁止しているわけではない。

 <外務省はモスクワなどロシアの大部分の危険情報を4段階で2番目に厳しい「レベル3」(渡航中止勧告)に設定している。ウクライナとの国境周辺地域は退避を促す「レベル4」だ。/いずれも法的な強制力はないものの渡航判断や安全対策の目安になる。同省は情勢の急変によってロシアからの出国手段が一層制限される可能性があるとして、どのような目的であってもロシアを訪れないよう呼びかけている>(3日「日本経済新聞」)。

 しかし、日本の新聞社、通信社、テレビ局もモスクワ支局を閉鎖せずに日本人記者が仕事をしている。日本の商社員らもモスクワで働いている。情勢の急変によってロシアからの出国手段が制限されるリスクについては(外交特権を持っている大使館員を除き)、鈴木氏も記者もビジネスマンも同じ条件下にある。

 日ロ両国が交戦状態にあるわけではない。しかもロシアは日本の隣国だ。私生活ならば、マンションの隣にどうしても相性の合わない人が住んでいる場合、引っ越すという形で問題を解決することができる。しかし、国家は引っ越すことができない。好きでも嫌いでも隣国とは付き合っていかざるを得ないのだ。

 国会議員は、自ら政治的リスクを負うことによって、政府から独立して外交活動をすることが期待される場合がある。政府が公の立場に縛られて身動きが取れないときに議員がその補完のため、ロシアとの対話チャネルを維持することは日本の国家ならびに国民の利益にかなうと筆者は考える。ロシアの行為が侵攻であるという認識は政府も鈴木氏も筆者も同じだ。

 ただしウクライナ戦争に関しては「ミンスク合意2」を順守しなかったウクライナにも政治的責任があるというのが鈴木氏の主張だ。外交専門家の間では十分通用する議論だ。鈴木氏が政府と異なるのは即時停戦を訴えていることだ。この点では筆者も鈴木氏と同じ考えだ。一つでも多くの命を救うことが重要だからだ。ちなみにロシア政府も即時停戦には反対している。そのロシアの政治家や幹部外交官に鈴木氏が即時停戦を訴えるのは勇気のある行動と筆者は考えている。

(作家、元外務省主任分析官)