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イスラエルの核 使用回避に日本も貢献を<佐藤優のウチナー評論> 


イスラエルの核 使用回避に日本も貢献を<佐藤優のウチナー評論>  佐藤優氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 パレスチナ自治政府のガザ地区における情勢緊迫化が、連日、全世界のマスメディアで大きく報じられている。近くイスラエル軍がハマスを根絶やしにするためにガザ地区で地上作戦を展開する。それに伴い民間人に多数の死傷者が出る。ガザ地区の問題だけに目を向けていると、現下の世界が直面している危機的状況を捉え損ねると筆者は考える。より深刻なのは、イスラエル北部の情勢だ。

 <米政府によると、バイデン米大統領は22日、イスラエルのネタニヤフ首相と電話会談し、ガザへの人道支援物資搬入を継続させることを確認した。一方、ネタニヤフ氏は22日、ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとレバノンのシーア派組織ヒズボラの二正面で作戦準備ができていると強調した。地上侵攻に向けた準備の一環とみられる>(24日本紙朝刊)。

 イランがハマスとヒズボラを支援している。ただし、イランはハマスよりもヒズボラを本格的に支援している。それには理由が二つある。第一は、イスラム教の宗派の違いだ。イランは12イマーム派のシーア派イスラム教を国教にしている。ヒズボラも12イマーム派だ。イランとヒズボラは同じ信仰で結ばれた同志なのである。他方、ハマスはイスラム教スンナ派に属する。イランは「敵(イスラエル)の敵は味方である」というプラグマティズムでハマスを支援しているに過ぎない。

 第二は戦力の違いだ。ハマスには民兵組織レベルの能力しかない。従って地上作戦が始まれば、イスラエル軍はハマスによって完全に中立化される。ヒズボラの軍事力はハマスの数十倍ある。しかもイラン製の最新兵器で武装している。イスラエルがガザで地上作戦を展開している間にハマスがレバノンからイスラエルを激しく攻撃し、越境の可能性が高まる。そうなるとイスラエル軍の6~7割を北部に移動し、ヒズボラとの戦いに備えなくてはならない。

 米国はこの危機的状況をよく理解している。だから空母打撃群を二つも東地中海で展開しているのだ。もしヒズボラがイスラエルを攻撃するならば、米軍が航空母艦から戦闘爆撃機を飛ばし、ヒズボラの根拠地を空爆するというシグナルを送っている。しかし、それ故にヒズボラがイスラエルを攻撃しないという判断ができるような状況ではない。さらに空爆だけではヒズボラの武装組織を壊滅させることはできない。だから地上戦を展開しなくてはならない。しかし、現在の米国世論は、テロを根絶する闘争の一環としてヒズボラと戦うためレバノンやイスラエルに将兵を送ることには忌避反応を示す。

 イスラエルは人口955万人の小さな国だ。既に10万人の将兵に加え、35万人の予備役が召集されている。この戦力でガザとイスラエル北部で二正面の戦いで圧勝することは難しい。そうなると危険な選択を取る可能性が生じる。イスラエルが核保有国であるというのは、インテリジェンスの世界だけでなく、外交や軍事の世界でも常識だ。

 現在、レバノンとイスラエルは激しく対立しているので、レバノン南部にユダヤ人はいない。この状況でイスラエルが小型核をレバノン南部で使用するリスクがある。このシナリオだけは絶対に避けなくてはならない。

 ヒズボラは、イランが許可しない限り、イスラエルを本格的に攻撃することはない。日本はイランとも良好な関係を維持しているので、日本政府がイラン政府にヒズボラを自制させる必要があると説得すべきだ。 

(作家、元外務省主任分析官)