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共産党「百年」 沖縄差別、公然と批判を<佐藤優のウチナー評論> 


共産党「百年」 沖縄差別、公然と批判を<佐藤優のウチナー評論>  佐藤優氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 10月に日本共産党の公式党史、日本共産党中央委員会「日本共産党の百年 1922―2022」が刊行された。前回に公刊された公式党史が「日本共産党の八十年」(日本共産党中央委員会出版局、2003年)だから、20年ぶりに党が公式に歴史を総括したことになる。興味深いのは、80年党史と異なり、100年党史が日本共産党中央委員会出版局からではなく、共産党系の総合出版社・新日本出版社から刊行されていることだ。党内だけでなく、広く一般の読者にも届くようにするという共産党の「反転攻勢」なのだろう。

 80年を継承して100年党史でも当時の日本共産党書記長を務めていた徳田球一氏(1894~1953年、母親が沖縄人で父親が日本人であった徳田氏は沖縄人と日本人の複合アイデンティティーを持っていた)が主導した1946年2月の共産党第5回党大会で発表した「沖縄民族の独立を祝うメッセージ」を誤りと総括している。

 <また、徳田書記長の提案で決定した「沖縄民族の独立を祝うメッセージ」は、沖縄が米軍直轄の特別地域とされたことを「独立と自由を獲得する道」とみなしたもので、沖縄への差別的抑圧への反発と占領への無警戒がむすびついて生まれた誤りでした。党は、四八年八月、「講和に対する基本方針」で、民族的、歴史的にみて日本に属すべき島々の日本への帰属を求め、沖縄での祖国復帰運動の展開と交流をへて、沖縄返還を基本要求にかかげ、この誤りを克服しました>(「日本共産党の百年」80頁)。

 この記述ではメッセージの内容が分からないので、「沖縄大百科事典」(上巻、沖縄タイムス社、1953年、588頁、新崎盛暉執筆)における当該項目を見てみよう。

 <日本共産党が1946年«昭和21年»2月の第5回大会で、沖縄出身者の組織である沖縄人連盟にあてたメッセージ。その内容は、«…数世紀にわたり日本の封建的支配のもとに隷属させられ、明治以後は日本の天皇制帝国主義の搾取と圧迫とに苦しめられた沖縄人諸君が、今回民主主義革命の世界的発展の中についに多年の願望たる独立と自由を獲得する道につかれたことは、諸君にとっては大きい喜びを感じておられることでしょう。…たとえ古代において沖縄人が日本人と同一の祖先からわかれたとしても近世以後の歴史において日本はあきらかに沖縄を支配して来たのであります。すなわち沖縄人は少数民族として抑圧されて来た民族であります»となっている。島津の琉球侵入以降の歴史を日本の沖縄に対する支配ととらえ、これを米軍にたいする解放軍規定と結びつけて独立論を導き出すというのがその論理構造である>。

 確かに米占領軍が日本と沖縄の民主化革命を推進してくれるだろうとの共産党の期待は間違っていた。しかし∧近世以後の歴史において日本はあきらかに沖縄を支配して来たのであります。すなわち沖縄人は少数民族として抑圧されて来た民族であります∨という徳田氏の認識は正しいと思う。日本共産党が、日本による沖縄差別という立場を放棄し、極端な同化主義に傾いてしまったことは残念だ。

 辺野古新基地建設問題の本質も、日本による沖縄に対する構造化された差別が形を取ったものにすぎない。こういう状況で沖縄人は抑圧された少数民族であるという認識が出てきてもおかしくない。日本共産党が創立100年をきっかけに日本による沖縄差別を公然と批判できる党になってほしい。

(作家、元外務省主任分析官)