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中立という幻想 日本はイスラエル側に<佐藤優のウチナー評論> 


中立という幻想 日本はイスラエル側に<佐藤優のウチナー評論>  佐藤優氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 パレスチナ問題については、イスラエル国家とパレスチナ国家の併存を目指す動きを支持するというのが日本政府の基本的立場だ。イスラエルとパレスチナの間で武力衝突が起きても、日本はいずれの側も支持せず、問題の平和的解決を呼びかけていた。しかし、10月7日のパレスチナ自治政府ガザ地区に拠点を持つイスラム教スンナ派武装集団ハマスによるイスラエル攻撃に関して、日本は中立の立場を取っていない。日本はイスラエル側に立っている。そのことをよく理解していない有識者や記者が多いので報道を読んでも読者が事態を正確に把握できない状況が生じている。

 上川陽子外相が3日、イスラエルを訪問し、同国のコーヘン外相と会談した。イスラエル軍がガザ市を包囲して本格的な地上作戦に入り、民間人が巻き添えになって死傷することが避けられなくなったこの時点で上川外相がコーヘン外相に<今般のハマス等による残虐な殺りく、誘拐等を含むテロ攻撃を断固として非難する旨を改めて述べた上で、イスラエル国民との連帯の意を表明するとともに、今般のテロ攻撃の犠牲者の御遺族に対して哀悼の意を表し、負傷者の方々に心からお見舞い申し上げる>(外務省HP)と発言したことは、イスラエルの掃討作戦を理解するという政治的意味合いを持つことになる。

 ヨーロッパの外相ならばこのタイミングでは上川外相のようにストレートな物言いはしなかったと思う。しかもハマスに人質に取られた人々の家族と面会し、激励している。

 <外相会談後、上川大臣は、コーヘン外相の同席の下、ハマスによるテロ攻撃で亡くなった方、誘拐された方の御家族3組と約30分間面会しました。御家族からは、テロ当日の状況につき説明があり、人質の早期解放やテロのない世界に向けた協力につき要望がありました。上川大臣からは、辛い状況の中で話を聞かせていただき感謝する、イスラエル国民と連帯している、人質の解放やテロなき世界に向けてできる限りの努力をしたい旨、述べました>(前掲、外務省HP)。

 日本政府の基本的立場はハマスによるテロ攻撃を弾劾し、イスラエル軍によるテロ掃討作戦を理解するが、作戦遂行に当たっては民間人犠牲者を極少にしてほしいと要望しているに過ぎない。こういう姿勢を中立とは言わない。

 日本政府はウクライナ戦争とガザ紛争は本質的に異なると認識している。ウクライナ戦争はロシアの侵攻を契機とする国家間戦争だ。対してガザ紛争はハマスというテロ組織に対するイスラエル軍による掃討作戦だ。この紛争はイスラエルとパレスチナの戦争ではなく、テロ組織やテロ支援国家と国際的なネットワークを持つハマスを中立化するための作戦であると日本政府は認識している。

 このような政府の政策に対する評価はさまざまであろう(筆者は、本件をハマスによるテロとの戦いであると捉える日本政府の判断は正しいと考える)。いずれにせよ今回のガザ紛争に関して、日本は中立ではなくイスラエルに軸足を置いているという事実を正確に認識しておく必要がある。

(作家、元外務省主任分析官)