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池田大作と沖縄 民衆の視座で平和へ行動<佐藤優のウチナー評論>


池田大作と沖縄 民衆の視座で平和へ行動<佐藤優のウチナー評論> 佐藤優氏
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 創価学会名誉会長の池田大作氏(創価学会第三代会長、SGI[創価学会インタナショナル]会長)が、15日、東京都新宿区の居宅において老衰で逝去した。享年95。池田氏は沖縄との関係でも、重要な宗教人だ。池田氏が執筆した長編小説「人間革命」を創価学会は「精神の正史」と位置付けている。この小説の冒頭でいかなる戦争も民衆の立場から拒否するという池田氏の強い決意が示されている。

 <戦争ほど、残酷なものはない。/戦争ほど、悲惨なものはない。/だが、その戦争はまだ、つづいていた。/愚かな指導者たちに、ひきいられた国民もまた、まことにあわれである>(池田大作「人間革命 第1巻」聖教ワイド文庫、2013年、15頁)。

 池田氏はこの箇所を1964年12月2日に沖縄で書いた。

 <池田先生が『人間革命』の執筆を開始した地は、日本で唯一、太平洋戦争の地上戦が行われ、多くの一般市民が犠牲となる悲惨と苦汁をなめた沖縄でした。/池田先生はのちに「その朝、私は一人、文机に向かい、万年筆を握ると、原稿用紙の第一行に力を込めて書き始めた。『人間革命』―そして、『第一章 黎明一』と続けた……」と、当時を回想しています。「戦争ほど、残酷なものはない。/戦争ほど、悲惨なものはない」との言葉で始まる『人間革命』の執筆開始は、人類の平和と幸福の「黎明」を開きゆく闘争を開始する、高らかな宣言でもあったのです>(創価学会公式サイト)。

 創価学会を支持母体とする公明党が自民党と連立を組んだ後、創価学会の平和主義が後退したと主張する人がいるが、間違った見方だ。ここで重要なのは、創価学会が世界宗教に発展しているという現実だ。この点、キリスト教との類比が参考になる。

 発生当初のキリスト教はローマ帝国と対峙(たいじ)する反体制宗教だった。しかし、キリスト教徒が貧困層だけでなく、知識人、貴族らにも拡大するにつれて帝国としてもこの宗教を無視できなくなった。313年にコンスタンティヌス帝がミラノ勅令を公布し、キリスト教は「与党化」した。しかし、このことは平和を実現する、貧しき者、虐げられた者と共にあるというイエス・キリストの愛の教えからキリスト教が離れたことを意味しない。「与党化」する中で、現実の社会により大きな影響を与える形で愛の教えを実践するようになった。

 確かに自公連立政権が続く過程で、創価学会も「与党化」した。これは巨視的に見れば、創価学会が世界宗教になる過程で避けられない現象と筆者は考えている。ただし、注意深く見ると、創価学会が国家や政府と完全に一体化しているわけではないことが分かる。ロシア・ウクライナ戦争に関して、創価学会は即時停戦を訴え、池田氏がそのイニシアチブを取った。例えば、本年1月11日の池田氏によるウクライナ危機と核問題に関する緊急提言「平和の回復へ歴史創造力の結集を」だ。

 また、沖縄の公明党は、辺野古新基地建設に反対の姿勢を取っているのみならず、在沖米海兵隊の海外移転を主張している。ときどきの政治状況で、この方針をどれだけ強調するかには波があるが、基本方針は揺らいでいない。それは沖縄の創価学会が、平和について沖縄の民衆の視座で考え、行動しているという現実を反映している。東京の公明党本部とは異なる方針を取っている沖縄の公明党の活動が容認されているのも、他の政党とは異なる生命尊重、人間主義という創価学会と共通の価値観で公明党が動いているからだ。

(作家、元外務省主任分析官)