台湾有事への懸念が高まる中、政府は九州・山口8県に対する沖縄の避難民受け入れ要請を終えた。今後は各県と連携し、避難計画の策定を加速させる方針だ。
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ただ避難先への輸送手順の検討は道半ばで、受け入れには8県の協力が欠かせない。事態が深刻になれば日本全国に影響が拡大するとの懸念もある。
1日に2万人
「昨年度から島外避難の手段は検討を進めてきた。次のステップに進めていきたい」。内閣官房の仁井谷興史参事官は27日午後、山口県庁で県幹部に、避難手続きの進捗(しんちょく)の手応えを示した。
沖縄県の試算では、避難対象とする先島諸島の約12万人を航空機や船舶を使って1日当たり約2万人輸送。6日間で避難を完了できるとしている。
試算には天候が悪化した場合や、空港や港を米軍や自衛隊が占拠して利用が制限されるケースは考慮されていない。高齢者や乳幼児、重病人の輸送も検討課題だ。
沖縄県関係者は「最速を想定したもので、輸送が長期化する可能性はある」と説明。政府や県は、より現実に近い内容で検討を重ねる考えだ。
足並み
「九州の役割は非常に大きい」。10月17日、熊本県庁で蒲島郁夫知事と面会した松野博一官房長官は、九州各県の避難民支援に強い期待感を表明した。
背景には沖縄県と九州・山口各県が2006年に結んだ「武力攻撃災害等時相互応援協定」がある。有事の際には食料や水など生活必需品や住宅の提供、緊急輸送路の確保などを円滑に行うと規定しており、政府関係者は「協定を生かして話し合いを進めてほしい」と語る。
とはいえ、自治体間の認識のずれも出ているもようだ。福岡県は「政府から正式要請はない」としている。
内閣官房は「意思疎通が進めば前向きに協力してくれるはずだ」と強調。福岡県には改めて政府の要請を説明する方向で調整している。
疑念
避難対象は沖縄県・先島諸島だけで済むのか―。軍事力を急拡大する中国に間近で接する自治体には、政府の想定への疑念も生じている。「いろいろなバリエーションを再度検討する必要があるのではないか」。松野氏から避難民の受け入れを要請された鹿児島県の塩田康一知事は10月18日、政府の対応に注文を付けた。
想定では、沖縄の先島諸島を除く地域や鹿児島の奄美群島は島外避難の対象に含まれていない。避難民が増えれば九州・山口だけでは受け入れ切れない可能性もある。
政府の担当者の一人は取材に対し「事態が大規模になれば、避難対象地域が広がる可能性はある」と説明。「万が一の事態が起きた場合は、規模に応じて日本全国で対応していく」と理解を求めた。
(共同通信)