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琉仏修好条約の原案 県が入手し自己決定権強化を<佐藤優のウチナー評論> 


琉仏修好条約の原案 県が入手し自己決定権強化を<佐藤優のウチナー評論>  佐藤優氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 琉仏修好条約関連とみられる文書が東京のオークションに出品されたが、落札されなかった。

 <1855年に琉球国がフランスと交わした琉仏修好条約に関する国書(外交文書)4通と、条約の原案とみられる文書2枚が見つかり、東京都内のオークションに出品された件で、原本とみられる文書がいずれも落札されなかったことが20日、関係者への取材で分かった。関係者によると、落札希望者が提示した金額が、出品者が設定した最低落札希望額(非公表)に満たなかったという。

/原本とみられる文書は19、20日に全国の古書店が参加する東京都内のオークション(東京古典会主催)に出品された。/関係者によると、落札されなかったことを受け、原本とみられる文書は今後、出品者に返還される。出品者は琉球国の外交の歴史を記す文書である点を鑑み、今後、県や県の関係機関などと交渉する意向を示しているという>(11月21日本紙電子版)。

 県が早急に動いてほしい。県庁内にプロジェクトチームを作って、県の代表者と文書の真贋(しんがん)を鑑定できる専門家が出品者と接触し、文書が本物であるかどうか鑑定する。鑑定して、本物であることが明らかになれば、直ちに交渉して入手してほしい。1855年時点で、沖縄(琉球国)が当時の列強であるフランスから国際法の主体であったと認知されていた事実を示す重要文書だからだ。

 沖縄はこれから国際法の主体としての立場を獲得するのではない。かつて有していた国際法の主体としての地位を沖縄が回復する権利を持っていることを確認するだけで十分だ(ちなみに、権利を持っていることと、それを行使するかどうかは別の問題だ)。

 沖縄の自己決定権を強化する上で、この文書を県が入手することがとても重要になる。県の予算には、国からの交付金が含まれている。この文書の購入に県の予算を用いると、沖縄の自己決定権確立に反対する勢力から攻撃される可能性があるので、県がクラウドファウンディングを行うか、あるいは辺野古基金のような「琉仏修好条約関連文書保全基金」のような団体を作り、全世界のウチナーンチュ(沖縄人)に呼びかけ、沖縄人が中心になって集めた資金でこの文書を入手することが望ましい。

 この文書を入手する過程で、われわれ沖縄人が1854年の琉米修好条約、155年の琉仏修好条約、59年の琉蘭修好条約によって、当時の帝国主義列強3国から国際法の主体と認められていたという記憶を皮膚感覚で回復するのだ。

 県の動きが鈍い場合、次善策として琉球新報社に動いてほしいと思う。琉球新報社は株式会社であるが、公共性も持っているからだ。入手を急ぐ必要がある。

 筆者は外務官僚だった。仮に筆者が外務省か、内閣府で沖縄を担当する官僚だったならば、全力でこの文書を日本政府が入手すべく努力したと思う。

 県であれ新聞社であれ、沖縄側にこの文書が渡ってしまうと、沖縄人のアイデンティティーが強化され、中央政府にとって都合の良くない状況が生じるからだ。

(作家、元外務省主任分析官)