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教育無償化を実現する会 政策は沖縄にプラス<佐藤優のウチナー評論> 


教育無償化を実現する会 政策は沖縄にプラス<佐藤優のウチナー評論>  佐藤優氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 11月30日、国民民主党の前原誠司代表代行(元外相)が、同党を離党して新党「教育無償化を実現する会」を立ち上げると表明した。前原氏は、聡明(そうめい)な知性と優しい心を併せ持った政治家だ。だから外政はリアリズム、内政は社会民主主義(あるいは米国型のリベラリズム)になる。外交的には日米同盟を基礎とした上で、中国、ロシアともバランスを取るという地政学に基づく勢力均衡を主張する。内政的には構造的に弱い立場に置かれた人に国が手を差し伸べる再分配政策を重視する。

 こう書くと「前原氏は辺野古新基地建設に賛成している。お前はそういう人と友人なのか」という問いかけが読者からなされると思う。対する筆者の答えは「前原誠司氏は私の友人である」というものだ。筆者は前原氏が外相だった時期を含め、辺野古新基地建設問題やオスプレイ配備問題については、何度も腹を割って話し合った。前原氏は同氏なりの考え方で沖縄のことを考え、その考えに同調する名護市民もいる。

 しかし、筆者はこの点では前原氏に同意できない。むしろいくら良心的であっても、日本人の政治家にとって沖縄は一つの変数に過ぎない。筆者の場合、沖縄が「祖国」で沖縄を日本全体の利害関係にとっての変数と考えることはできない。その違いが辺野古新基地建設問題で日本の政治家、官僚、有識者と話すときの超えられない壁になる。違いを残しても人間的信頼関係を構築することは可能だ。

 例えば、筆者の北方領土問題、ウクライナ戦争、ガザ紛争、旧統一教会問題、創価学会についての評価で、全ての点で意見が同じ沖縄人は少ないと思う。しかし、それ故に沖縄に関して筆者が発信する内容が受け入れられないわけではない。異論を残しながらも協力できる分野では信頼関係を構築し互いに裨益(ひえき)する関係を拡大することを外交用語で「戦略的互恵関係」と呼ぶ。沖縄にとって重要なのは、日本と戦略的互恵関係を構築することだ。

 今回、前原氏が新党の名称を「教育無償化を実現する会」としたのは、前原政権ができたときには、この政策が1丁目1番地になることを意味している。

 筆者と前原氏との付き合いは、民主党が政権を取る前からのことで、15年以上になる。世代が近く(生年は前原氏が1962年、筆者は60年)、学生時代を共に京都で過ごしたこともあり、波長が合う。前原氏は中学生の時にお父さんを亡くし、母子家庭で育った。京大生時代も魚市場と家庭教師のアルバイトをしながら自力で大学を卒業した。10年くらい前から前原氏は教育無償化を最重点政策にするようになった。

 2人で食事をした時に前原氏は「佐藤さん、あの頃は僕のような母子家庭の子ども本人が努力すれば自力で京大を卒業することができた。しかし、現在ではそれが不可能になっている。親の経済状態にかかわらず、子どもはその適性に応じて、無償で教育を受けることができる制度を作りたい。家庭の境遇にかかわりなく、子どもには夢が実現できるような社会にしたい」と述べていたことが強く印象に残っている。

 前原氏の政策が実現することは沖縄にとってもプラスになる。教育無償化を実現することで、意欲と適性のある沖縄の子どもに、家庭の経済状況に関わりなく、十分な教育を保障する体制を構築したい。

                                                   (作家、元外務省主任分析官)