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岸田政権対検察特捜 民主主義を揺るがす手法<佐藤優のウチナー評論> 


岸田政権対検察特捜 民主主義を揺るがす手法<佐藤優のウチナー評論>  佐藤優氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 自民党の派閥が行った政治資金パーティーを巡る裏金問題が政界を揺るがす深刻な問題になっている。本紙は13日の社説でこう主張した。

 <自民党の政治資金パーティー裏金問題は日を追うごとに疑惑が深まっていく。安倍派(清和政策研究会)全体で5億円ほどの裏金がつくられていたとみられることが判明した。他派閥でも過少記載の疑いがあることも分かった。岸田文雄首相は政権から安倍派を一掃する構えだが、一派閥の問題にはとどまらない。徹底的に究明する必要がある。/安倍派から現内閣には松野博一官房長官ら4閣僚のほか、副大臣5人、政務官6人が出ており、この15人を交代させる。そのほか党務では高木毅国対委員長、萩生田光一政調会長も交代となる。事実上の更迭である>

 筆者も同じ認識だ。派閥の政治資金パーティーは直ちに禁止すべきで、政党、政治家の政治資金パーティーに関しても会計報告が正確になされているかについて精査し、問題があるならば、その悪質性に応じて、それぞれ法的、政治的、道義的責任をとってもらわなくてはならない。

 特捜検察は岸田政権と全面対決する腹を固めていると筆者はみている。ただし、この疑惑を巡る情報の流れについて、筆者は民主主義体制を揺るがす危険があると強い懸念を持っている。この疑惑は、1日の朝日新聞が「安倍派、裏金1億円超か パー券不記載、立件視野 ノルマ超分、議員に還流 東京地検特捜部」という見出しの独自報道を行ってから、嵐のように拡大した。朝日新聞の情報源は「関係者」となっている。その後、各紙は後追いをしたが、いずれも情報源は「関係者」もしくは「関係筋」になっている。

 情報源が東京地検特捜部か、さらにその上の検察幹部であることは間違いない。検察官も国家公務員だ。国家公務員には守秘義務がある。捜査情報は当然、守秘義務の対象となる事項だ。他方、新聞を含むマスメディアの仕事は、国民の知る権利に奉仕することだ。検察官に守秘義務違反をさせて秘密情報を入手しても、それは記者の正当な業務なので法的責任を追及されることはない。この仕組みにわなが潜んでいると筆者は考える。

 岸田政権の閣僚は全員、国会議員だ。すなわち有権者によって選挙された国民の代表だ。他方、検察官は司法試験に合格した人の中から選抜される。国民による直接の審判は受けていない。国民によって選ばれた代表が、国民の統制の外側にある検察官の国家公務員法に違反するリーク(情報漏えい)によって起こったマスメディアの「嵐」によって世論の非難を追い風にして、事件化していくという手法は、民主主義になじまないと思う。特捜部が、政治家の犯罪を摘発するのは当然の仕事だ。

 しかし、それは法的手続きを順守して行われなくてはならない。犯罪の事実があるならば、証拠を丹念に集めた上で、起訴すればよいだけのことだ。新聞へのリークによって、捜査をやりやすくするという手法は手抜きだ。

 この手法がうまくいく場合がほとんどだが、村木厚子氏(逮捕、起訴当時、厚生労働省の局長、無罪判決が確定した後に同省事務次官を務める)のような事故が起きる可能性もある。特捜検察が再び危うい道に入りかけているように筆者は思えてならない。新聞は、検察のリーク報道をそのまま報じるのではなく、その動機(例えば検察官の出世欲)なども併せて報じるべきだ。

(作家、元外務省主任分析官)