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活性化、世界遺産に望み 「南西シフト」、軍備増強進む<奄美復帰70年>


活性化、世界遺産に望み 「南西シフト」、軍備増強進む<奄美復帰70年> 日米共同訓練で展開する、陸上自衛隊の「12式地対艦誘導弾」=2022年8月、奄美市の陸自奄美駐屯地
この記事を書いた人 Avatar photo 共同通信社

 70年前の1953年に米軍統治下から日本復帰を果たした鹿児島県・奄美群島。本土との格差是正を目指した振興事業でインフラ整備は進んだが、低所得や人口減対策の決定打とはなっていない。住民の思いとは裏腹に、政府は防衛力強化へ自衛隊の「南西シフト」を加速。沖縄県と同様、防衛力強化が着々と進む。住民は世界自然遺産を生かした観光での活性化に望みを託す。

 復帰したい

 「当時は生活すらままならず、食をつなぐことで精いっぱいだった」。鹿児島市のNPO法人「ほこらしゃの風」の義山昭夫理事長(80)は70年前の暮らしを振り返る。

 島民挙げてのハンガーストライキで早期復帰を訴えるなど苦難に満ちた歴史を追体験してもらおうと、10年前から毎年断食を実施。「経験者が伝えていく責任がある」と力を込めた。

 徳之島町に住む田袋吉三さん(96)は復帰運動に関わった一人だ。米軍統治下では本土との交通が規制され、物資不足に苦しんだ。「一日も早く復帰したい一心で、断食祈願をした」と語る。

 生活保護2倍超

 本土並みの生活水準に引き上げるため、復帰翌年の1954年に制定されたのが奄美群島復興特別措置法(現・奄美群島振興開発特別措置法)だ。経済再建が遅れていた上、台風の常襲地帯という特殊事情もあり、同法などによってこれまでに約2兆6千億円が投じられた。ただ、近年はソフト事業重視になり、減少傾向にある。

 群島最大の奄美大島は、沖縄本島、佐渡島(新潟)に次ぐ面積を誇るが、1次産業の衰退に加え、特産の大島紬(つむぎ)の販売不振なども重なり、深刻さを増している。道路や港湾などインフラ整備は進んだが、20年度の群島民1人当たりの平均所得は国民平均の72.1%にとどまる。21年度の生活保護率は千人当たり44.4人で、県や全国平均の2倍超となっている。

鹿児島県奄美市の中心部の商店街=23日

 活路を

 過疎化の一方、軍備増強は着実に進む。19年、奄美市と瀬戸内町に陸上自衛隊のミサイル部隊と警備部隊が配備された。

 こうした中で、奄美大島と徳之島が21年に沖縄本島北部や西表島とともに世界自然遺産に登録され、住民は観光産業の成長に期待している。

 国の奄美群島振興開発審議会委員で観光振興のコンサルティングを手がける小池利佳さん(58)は「沖縄など先発地域の事例から学び、地域づくりを一層進めることが必要だ」と指摘する。

 復帰運動のリーダーで詩人の故泉芳朗をしのぶ会の楠田哲久代表(76)は「泉氏は情報収集をして情勢を見極めていた」とし、「世界情勢を踏まえながら観光産業に活路を見いだして前に進むしかない」と話した。

(共同通信)