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構造的差別と無関心 日本人の心に響く言葉模索<佐藤優のウチナー評論>


構造的差別と無関心 日本人の心に響く言葉模索<佐藤優のウチナー評論> 佐藤優氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 今年もあと2日を残すのみとなった。2023年は、筆者個人、世界、沖縄にとって重要な年だった。

 筆者個人に関しては6月27日に行った生体腎移植(ドナーは妻)が成功し、余命が延びたことが最も大きな出来事だった。筆者はプロテスタントのキリスト教徒なので、命は神より預かったものと考えている。この世での生を延ばしてもらったのは、筆者が社会でやるべき使命があるからと受け止めている。自らのルーツである沖縄のためにもっと奉仕しなくてはならないとの思いを強くした。

 この1年で国際情勢は一層悪化した。ロシア・ウクライナ戦争も長期化している。それに加え、10月7日のハマスによるイスラエル攻撃を契機に、長期の武力紛争が続いている。世界は「新しい世界大戦前」のような状況に至っている。第3次世界大戦の勃発だけは何としても避けなくてはならない。

 沖縄にとっても、「われわれ沖縄人は、日本国家、日本人と今後どう付き合っていかなくてはならないか」という問題について、考えざるを得ない状況に直面している。

 <米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古の新基地建設を巡る代執行訴訟で、福岡高裁那覇支部による設計変更の承認命令を沖縄県が承認しなかったことを受け、斉藤鉄夫国土交通相は26日の閣議後会見で「28日に沖縄県知事に代わって承認を行う」と明らかにした。国は、沖縄防衛局による地盤改良工事の設計変更申請を県に代わって承認する代執行に踏み切る>(27日、本紙電子版)。

 日本による沖縄に対する差別は構造化されている。差別が構造化されている場合、差別している側は自らが差別者であるという現実を認識していないのが通例だ。日本の行政だけでなく司法もこの差別に組み込まれていることがこの代執行訴訟で「見える化」された。

 より本質的な問題は、大多数の普通の日本人が、沖縄が置かれた状況に無関心なことだ。この無関心さの中に構造化された差別があり、沖縄人の心を真綿で締め付けるような暴力がある。この現実を、日本人の心に通じる言葉で表現することが職業作家としての筆者の責務である。いろいろ努力はしているのだが、いまだ適切な表現を見いだすことができないというのが現状だ。

 玉城デニー知事はこの状況下でよく頑張っていると思う。玉城氏の個性とともに沖縄県知事という特殊な地位が知事の無意識を支配しているのだと思う。沖縄県知事は他の都道府県の知事と本質的に異なる特別の意味を持っている。県民により選ばれた代表というだけでなく、全世界の沖縄人の代表、日本とは別の国家であった琉球王国の伝統を継承する者でもある。

 沖縄の過去と現在が玉城デニー氏という人格に体現されているのだ。中央政府の圧力に屈せず、沖縄人の意思を体現している知事がいることに筆者は東京に在住する日本系沖縄人として誇りに思っている。

 読者の皆さん、よい年をお迎えください。

(作家、元外務省主任分析官)