中国の習近平国家主席が尖閣諸島での闘争強化を海警局に指示した。周辺海域では「モンスター」と呼ばれる中国の大型艦がたびたび出現し、緊張が高まる。中国経済の減速が鮮明になる中、国民の間に鬱積(うっせき)する不満を外に向ける狙いが透けて見える。偶発的衝突の危険性が増すばかりだ。
速射砲
11月29日、上海の海警局東シナ海海区指揮部の会議室。習氏の眼前の大型スクリーンに、白波を切って東シナ海を進む艦船の姿が映し出された。
テレビ電話を通じて「高度な警戒を続けます」と報告する隊員の声を、モスグリーンの軍服に身を包んだ習氏が表情を変えずに聞き取る。集まった軍幹部らに習氏は呼びかけた。「確かな成果を上げなければならない」
習氏への報告を行ったのは海警局が保有する最大規模の艦船「海警2901」の編隊。中国の軍事に詳しい専門家は同艦を「モンスター」と呼ぶ。全長165メートル、排水量1万2千トンで、76ミリ速射砲を搭載しているとされる。日本政府関係者は、体当たりされれば海上保安庁の巡視船は「ひとたまりもない」と危ぶむ。
現状変更
12月9日には尖閣周辺で操業する日本漁船を追いかけて海警局の艦船が領海侵入した。海保の巡視船が近づき、速やかに領海から出るよう警告。にらみ合いが連日続く。
「日本が(尖閣について)とやかく言う権利はない」。海警局の報道官は翌10日、尖閣は中国固有の領土だと主張した。
尖閣周辺で2023年に中国公船が確認された日数は、12年の日本政府による尖閣国有化以降、年間最多を更新した。中国外交筋は「歯磨き粉をチューブから少しずつ出すように日本の実効支配を崩すのが、うまいやり方だ」と語る。徐々に、だが確実に現状変更に向けた活動が続く。
エスカレート
中国が対日強硬姿勢を取るのは「内政で不安材料を抱えているからだ」(日中関係筋)との見方もある。深刻な不動産不況で、国内経済が長期停滞に突入する恐れも出ている。都市部の若者の失業率は6月に21・3%となり、記録が確認できる18年以降で最悪だ。有効な経済対策を打てない習指導部に民衆の不満が向く可能性も否定できない。
国営メディアは軍や海警局が東シナ海などで精力的に活動する様子を伝え、国民に「強国」のイメージを宣伝している。中国は尖閣を含む日本周辺の空域での活動も活発化させている。尖閣国有化以降、自衛隊の中国機への緊急発進(スクランブル)は急増。22年度も575回と高い水準が続いた。
習氏は米サンフランシスコで11月16日、岸田文雄首相と向き合った。尖閣を巡る岸田氏の懸念に対し、習氏は「両国の見解の違いをコントロールすべきだ」と取り合わなかった。
「中国が行動をエスカレートさせ続ければ、日中衝突につながりかねない」。日本政府高官は表情を曇らせている。
(北京共同=福田公則)