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人間の安全保障 沖縄の人間力で平和実現を<佐藤優のウチナー評論>


人間の安全保障 沖縄の人間力で平和実現を<佐藤優のウチナー評論> 佐藤優氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 明後日、8日午後2時から、那覇市の琉球新報ホールで始まる第1回人間の安全保障フォーラム(琉球新報社、ゴルバチョフ財団日本事務所主催)で、玉城デニー知事と公開対談を行うことになった。いつもこのコラムで書いている考えに基づき、沖縄と沖縄人の現在、過去、未来について、率直に知事と議論してみたいと思う。

 ここ数年、沖縄を取り巻く環境が急速に悪化している。最大の要因は、米国の影響力が弱体化しているからだ。ウクライナ戦争もガザ紛争も、米国が圧倒的な経済力と軍事力、さらにイデオロギー的威信(自由と民主主義、市場経済という単一の価値観で世界が統合されるのが望ましいというイデオロギー)を持ち続けていたならば、起きなかったことと思う。

 勢力圏を縮小している米国は、同盟国の潜在力を最大限に活用しようとしている。米国が標的にしているのはドイツと日本だ。日独の2カ国は圧倒的な経済力を持つにもかかわらず、十分な軍事協力を行っていないように米国には映る。そこで防衛費の負担増や米国の軍事行動への協力が一層求められるようになった。

 一部のおめでたい政治家や官僚は「日米同盟が強化された。これで日本の安全保障は盤石になる」と喜んでいるが、こういう人には日本が泥船に乗りかけているという現実が見えていない。少し乱暴な例えでこの状況を説明したい。

 広域団体(米国)の縄張りが縮小している。そうなると直参の組(日本、ドイツ)による本部への上納金が増える。また本部当番の回数も増える。しかし、こういう現象が起きるのは広域団体が弱ってきているからだ。米国が急速に衰退した結果、グローバルサウスと呼ばれる諸国の力が強まっている。これら諸国は米国流の価値観(特に民主主義)を好まない。また価値観に変わって地政学が重視されるようになる。地政学の本質は、帝国主義国間の力の均衡モデルだ。現状が自国の力を正当に反映していないと考える国家は、武力で均衡点を変えようとする。こういう国際環境の変化に沖縄も投げ込まれているのである。

 沖縄は自らの意思と関係のないところで、米国、中国、日本の地政学的均衡ゲームに巻き込まれている。さらにこのゲームには北朝鮮とロシアも加わっている。20年前と比較して、米国、日本の国力は弱くなり、中国、北朝鮮、ロシアの国力は強くなっている。この状況で南西諸島方面の緊張が増しているのだ。

 このまま事態を放置しておくと、緊張が臨界点を超えて戦争になる危険がある。だからそれを阻止するために沖縄が知恵を働かし、行動しなくてはならない。玉城知事は、どこまで意図的、戦略的かは分からないが、中国、台湾との対話を通じ、地域の信頼関係を強化しようとしている。

 人間の安全保障には二つの意味がある。「人間のための」安全保障であるとともに「人間による」安全保障ということだ。沖縄と沖縄人には武力ではなく人間力によって平和を実現する力があると筆者は確信している。

(作家、元外務省主任分析官)

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