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言語と差別 琉球語は日本語と対等<佐藤優のウチナー評論>


言語と差別 琉球語は日本語と対等<佐藤優のウチナー評論> 佐藤優氏
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 沖縄が日本によって構造的に差別されている事案がまた一つ露見した。今回は琉球語に関してだ。われわれ沖縄人は、当初、独立国家を持っており、その後、中国(明、清)と冊封体制に入った。客観的に見ると琉球王国は中華帝国ネットワークの一員だった。

 1609年、島津藩の武力を用いた琉球侵攻によって琉球王国は薩摩を通して日本にも服属するようになった。しかし、琉球王国は、日本の藩ではなく国家だった。1854年の琉米修好条約、55年の琉仏修好条約、59年の琉蘭修好条約によって当時の列強三国から主権国家として承認された。この国家は独自の王、独自の政府機構、独自の言語と文化を持っていた。

 79年に日本の中央政府は武力を背景に琉球王府を廃止、沖縄県を設置した。いわゆる「琉球処分」だ。その結果、沖縄は急速に日本化された。琉球語が廃れ、日本語に変えさせられた。その理由は二つある。

 第一は、中央政府の政策で日本語化が急速に進められたことだ。学校で琉球語を話した者には「方言札」が首にぶら下げられた。札を掛けられた者は、次に方言を話す者を見つけて札を掛けた。琉球語を蔑視し、差別する耐えがたい政策だった。ちなみに「方言札」は太平洋戦争後、筆者が知る範囲では1972年の沖縄返還ごろまで使われていた。

 第二は、都市化だ。沖縄県が設置された時点で実質的な公用語として用いられていたのは首里・那覇方言だったが、各地ではさまざまな琉球語を話していた。交通の利便性が高まり、各地域、島の沖縄人が都市に集まったときのリンガ・フランカ(共通の言語)が日本語になった。

 琉球語は日本語の方言ではなく、独自言語だ。言語学の世界で日本語を習得した専門家は、日本語のみならず琉球語も理解しているのが標準だ。日本語と琉球語によって広義の日本語になるからだ。

 18日にTBS系のバラエティー番組「櫻井・有吉THE夜会」での企画「方言禁止記者会見」で、われわれの同胞である沖縄県出身の俳優・二階堂ふみさんが出演した「方言禁止記者会見」が放映されたが、沖縄に対する構造化された差別を「見える化」した典型例だ。

 <TBSテレビ社長室広報・IR部は、取材に対し「『どんな役も見事に演じきる俳優さんでも、自身の出身地の方言にはつられてしまうのではないか?』を検証するもので、過去に別の俳優さんで同様の企画を放送した際は好評だったこともあり、沖縄の歴史的背景についての十分な検討ができておりませんでした」とコメントした。/「方言札」などで、沖縄の言葉を話すことを禁じられた歴史を踏まえた批判について同社は「今回の企画が差別的であるとのご指摘は、私どもとして真摯(しんし)に受け止めており、今回の反省を今後の番組制作に生かして参ります」と説明した>(24日本紙電子版)。

 TBSは白旗をあげた。ただこの人たちには、琉球語が方言でなく日本語と対等の言語であるという認識が欠けている。だから差別は繰り返される。

(作家、元外務省主任分析官)