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派閥の機能 大衆迎合回避に必要<佐藤優のウチナー評論>


派閥の機能 大衆迎合回避に必要<佐藤優のウチナー評論> 佐藤優氏
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 自民党が派閥を政策集団に転換するという方向性を示した。

 <岸田文雄首相(自民党総裁)は、内閣や党役員人事の際に派閥の影響力を排除するため、党機能を強化する検討に入った。派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた党改革の中間報告で人事選考時の派閥推薦を禁止したことを踏まえた対応。休眠状態にある党の「人事委員会」を活用する案が有力だ。党執行部が人事の主導権を握りたい考え。関係者が(1月)26日、明らかにした。

 /首相が本部長を務める党政治刷新本部が策定した中間報告では、政策集団として派閥存続を容認した一方、資金とポストの配分という派閥機能からは完全に決別すると明記した>(1月27日、本紙朝刊)。

 派閥をカネと人事から切り離した政策集団に転換しても、少し時間がたてば元の派閥に戻る。筆者はそれで仕方ないと思っている。派閥の目的は、そこから内閣総理大臣(首相)を出すことだ。派閥でもまれることによって、政策企画立案能力、情報処理能力、リーダーシップ、人間的包容力などが磨かれ、それなりの人物が頭角を現してくる。

 また経済政策や外交・安全保障政策についても派閥ごとに特徴がある。このようなことをよく理解した上で、派閥のトップから自民党総裁が選ばれ、さらにその人物が首相になるという仕組みを持っていることで、ポピュリスト的政治家が首相になることを回避できる。

 自民党の派閥が完全に無くなったとする。その場合、自民党の国会議員、地方議員、一般党員は、マスメディアやインターネット空間で評判のよい人を首相に選ぶようになる。ポピュリスト的政治家は、外交・安全保障政策については、極端な愛国主義を主張し、排外主義的傾向を強めるので近隣諸国との関係が難しくなる。特に中国との関係が過度に緊張することで沖縄に悪影響をもたらす。こう考えると、派閥で経験を積んだことにより、「大人の政治」ができる政治家が首相になった方が沖縄のためになると筆者は考える。

 派閥は、カネと人事と結び付かずして存在しない。それは多元的民主主義を担保するためのコストだ。塩素で消毒された水の中で魚は生きていくことができない。同時にあまりに濁った水の中でも魚は生きていくことができない。筆者が信じるキリスト教では人間は誰もが罪を持つと考える。罪が形をとると悪になる。政治の世界には必要悪がいくつかあり、派閥もその一つだと思う。過剰な清潔さを政治に求めると思わぬ副作用が出る。

 今回の派閥解消は、自民党派閥のパーティー券を巡る裏金を東京地方検察庁特別捜査部が事件化したことによって生じた。国民の直接的統制を受けない検察が、国会議員よりも実質的権力を持つような事態を招くという副作用が出ることを筆者は心配している。

(作家、元外務省主任分析官)