<金口木舌>みんなの公道なのに


<金口木舌>みんなの公道なのに
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 作家の高橋源一郎さんはインターネット上の交流空間を人々の言葉が行き交う公共の道路に例えた。その公道で交流を始めたものの、やがて間遠になったそう。言葉が自由に往来したネット上も現実社会の荒んだ言葉が投影するようになったのも一因だ

▼そんな現実は沖縄にも突きつけられた。2013年のこと。オスプレイ配備反対の建白書を政府に出し、東京の公道で沖縄の代表団がデモ行進した。その際の沿道からの罵声にぞっとする。「売国奴」「生ごみはごみ箱に帰れ」

▼ネットが現実に接近する様相を高橋さんも見たか。著書でこう記す。公道は「大声で叫ぶ、いくつもの集団、あるいは声の大きな人間が怒声を発する現場」になった。ネット空間では、言葉が人を攻撃する武器にもなった

▼東京都に近い埼玉県川口市や蕨(わらび)市でトルコ国籍のクルド人が今、矢面に立つ。現実社会もネット上も脅迫の文句が横行する。「出ていけ」「皆殺しにする」

▼排斥運動に加え支援団体へ届いたメールの文句を読んでいて暗澹(あんたん)となる。子どもへも被害が及んだとの報道もある。一部とはいえ、その所業は卑劣極まりない。