講演内容06


質疑応答


■今山 裕康氏(宜野湾記念病院 院長)
 貴重なお話ありがとうございました。私は宜野湾記念病院の今山と申します。私は日本医師会で勤務医師会の委員をしておりまして、女性医師のことをもっとお伺いしたいと思います。


 いま大変な医師不足と言われております。医師不足の中でも一番不足しているのは勤務医不足と言われております。女性医師のことを先ほど言いましたが、医師国家試験受験の女性の割合は30%を超えています。大学入学定員では女性はおよそ40%といわれております。ですから女性医師がもの凄く増えるわけです。そういった中で、女性医師が卒業した後はどうなっていくかと言いますと、Mディップと言いまして、卒業するのがだいたい24歳から25歳前後で、キャリアが10年いくかいかないかで、30歳を超えたぐらいで就業率がガクンと下がります。これはだいたい10倍ぐらいの差がでます。そこからある程度子育てが終るとちょっとあがるMディップという傾向がでます。こういったことがずっと続いていきますと、医師の定員は増えても、実際に働いている医師、勤務している医師というのは増えていかないのではないかと思います。それで非常に危機感をもって我々は女性医師の問題を何とかしたいと思っております。


 それに政府はなかなかいい対応をしてくれないというのが現状です。そういった問題に対して何かお考えがあればお伺いしたいと思います。


■松原 亘子氏
 10年ぐらい経って就業率に差ができるというのは、たぶん結婚や子育てなどによるのではないかと思われます。医師の方々だけではなくて、日本の女性の就業の状態は、全体でみてもM字型です。ちょうど30歳から34歳ぐらいが底になります。そこからまた上がっていきます。諸外国では台形になっています。


 最後に申し上げました子育て期、男女ともにあるわけですが、その期をどうサポートするかということが重要であると思います。せっかく長い時間をかけて専門的な知識を学ばれた女性医師の方々が、子育てのために辞められるということにならないようにしなければいけません。


 大学付属の病院では託児施設を作るという動きが結構ありまして、当財団にも問い合わせがありました。そういう子育てを支援する措置をどう講じるかということだと思うのですが…。

■今山氏
 ちょっと違うかも知れませんが、もうひとつ別の問題かも知れません。日本ではそういう感じですが、ロシアなどでは、男女の医師の数はほぼ一緒の50%ぐらいずつで、就業率もそんなに下がらないのです。ですから、文化などの違いとも思うので、そういったところも考えないといけないのではと思います。


 もうひとつは、女性医師は患者さんから要求されること、例えばワーキング・シェアと言ったら話は別になるかも知れませんが、男性医師は主治医としてきちんと患者さんを診れますが、女性医師がパート的な仕事で我々の補助をするとしても主治医にはなれないです。ですから男性と女性が同じ仕事がやれるかというと、できない部分もあります。そういったところが私は非常に問題ではないかなと思っています。


■松原 亘子氏
 なぜ女性がパート的な仕事しかできないのかが、よく理解できないのですが…


■今山氏
 ちょっと意味が分からなかったようで申し訳ないです。(女性でも)キャリアを持ってやれる人はいいのです。しかしそういう女性医師は非常に少ないです。



■松原 亘子氏
 それはなぜなんでしょう?


■今山氏
 それは意識の差だと思います。やれる人はやれるんだと。


■松原 亘子氏
 一度調査をされたらいかがでしょうか。それだけ高い専門職に就こうと思って医師になられた方々ですから、意識の違いというより現実の困難にぶつかっているのではないかと思いますが。


■今山氏
 日医の中には女性フォーラムというのがあるのですが、アンケート調査をすると、その中でもキャリアを続ける二つのグループに分かれるのだそうです。キャリアをもって自分でやっていこうというグループと、パート的に働けばいいかというグループに完全に分かれるそうです。ですから、そういう女性医師が増えるということになれば、医師としての実数は増えていかないということです。


 ですからそういったところで、この人達を何とかしないと我々勤務医というのはなかなか楽になれないのです。お分かりいただけましたでしょうか。


■松原 亘子氏
 分かりました。実態として、理由が何であれ途中で辞める人が多い、また復職する人がいるけれども、その人達は本格的な医師というよりもパート医師を志向するということでしょうか。ですからパートでしか働けないという女性医師をどうすればいいかというと、ひとつは本格的な医師として再就職できるような道を作るということでしょうか。女性の看護師の方々にも、医療の現場は技術革新で進歩が早くて追いついていけないので、一旦辞めると不安があり、再び働くことにはためらいがあるという方々がいるということは聞いたことがあります。そういう場合でも、それに追いついていけるような研修をすることによってキャッチアップできるのではと思いますが。医師の方々の場合はどうなっているのか、私は承知しておりませんが、いずれにしてもこの問題は、働く人全てに共通するテーマだと思います。ひとつは残念ながら辞めざるを得ないという状況にならないように、最初に申し上げた子育てとの両立が難しいため退職するということにならないようにするということです。もうひとつは、辞めた後また復職したいという場合にキャッチアップできるような体制を作るということではないでしょうか。


■友利 敏子氏(沖縄空輸会長)
 松原先生、今日は素晴らしいお話をどうもありがとうございました。


 最近大変問題になっております医療界は、まさしく女性労働者の全ての問題で、やはり先生が今ご指摘いたしましたように、途中で辞めるのをいかに辞めさせないようにするかと。優秀な労働力として会社がどれだけ大事に育てて、サポートしていくシステムを作るかということと、戻ってきた時にどれだけ優遇しながら、それこそポジティブ・アクションで受け入れるかということだと思います。いま医療界は問題になっておりますけれども、全ての女性労働者は10年20年前から同じようなことを言われております。本当にそれをどうやって社会が作っていくかということが、まさしく時代的なニーズだと思います。


 今日は先生の素晴らしいお話を、経営者の皆さん、リーダーの皆さんがお聞きしたので、沖縄の社会も少し変わっていけるのかなと、大変期待をしております。女性の労働問題は、長い間女性だけの問題として取り上げられていましたけれども、今日の先生のお話の中にもありましたように、これは全ての労働問題、そして人口問題でありますので、ぜひ全ての男性の方々がポジティブ・アクションで、女性にとって理解のある、余裕のあるおおらかな気持ちを持って育てていっていただければ、社会も、また女性自身もそれに甘えることなく、しっかりとした責任ある仕事ができる人間に育っていけたらなと思っております。


 「てぃるる」(沖縄県女性総合センター)の方で、私も先生方といろいろとお勉強しながら、そのようなことをしておりましたけれども、今は自分の会社に戻りました。非常に現実は厳しいものがありますので、いかに経営者や社会全体がまだまだ女性問題を取り上げていかなければいけないということを痛感しております。ところが、最近女性問題がトーン・ダウンしておりましたので、先生のようなお話を取り上げてくださった琉球新報さんに感謝いたすとともに、社会全体が女性問題に関心を持って進めていただければと願っております。先生、今日は本当にありがとうございました。


■松原 亘子氏
 おっしゃるとおりですね。ぜひ沖縄における女性問題のリーダーとして、また女性のリーダーとしてご活躍なされることを心よりお祈り致しております。


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