“母は強し”命の営み 糸満・ウミガメ産卵シーズン


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 【糸満】糸満市の海岸で、ウミガメが産卵シーズンを迎えている。17年間にわたり、同市でカメの産卵調査と保護活動を続ける小林茂夫さん(74)に同行し、カメの命の営みを取材した。(赤嶺玲子)

 ウミガメが産卵シーズンを迎える4~9月の期間、小林さんらは夜から明け方にかけて産卵調査を行う。調査データは糸満市と県に報告する。
 5月31日は午前1時半から観察を開始した。カメは光に敏感なため、肉眼と赤外線望遠鏡で観察を行う。小林さんは「海岸に光が見えると、警戒したカメが産卵を諦めて海に戻ってしまい、二度と上がってこなくなる」と話す。
 暗闇でじっと待つこと約1時間。午前2時40分ごろ、絶滅が危惧されるアカウミガメ1匹が、真っ暗な海岸にそろりそろりと用心深く上陸した。
 上陸したカメは後ろ足で深さ60センチほどの産卵巣と呼ばれる穴を掘り、砂に体を沈める「ボディーピット」という動作の後、「フーフー」と息みながら計144個の卵を産み落とした。卵の大きさは直径4センチほど。
 「産卵するまでは警戒心でいっぱいだが、いざ産み始めると産卵を終えるまでその場を動かない。カメも人も“母は強し”だね」と小林さん。
 写真撮影はカメが産卵を始めてから行った。「産卵の邪魔をしてごめんなさい」と謝りながら、シャッターを切った。
 産卵後、カメは残った力を振り絞るように、産卵巣を砂で埋め、卵の場所が分からないようにカムフラージュし、上陸から約2時間後に海へと戻った。卵は約2カ月でふ化するという。
 調査を続けて17年になる小林さんだが「必死に踏ん張って産卵するカメを見ると、今でも胸が熱くなる」と語る。
 「開発などで、カメの産卵場所はただでさえ少ない。それに加え、夏になると海岸で深夜までビーチパーティーや花火が行われる。人間は自然界の中に割り込んで生きている。自然界の命の営みを守るために、モラルを考えて行動してほしい」と呼び掛けた。

<ウミガメ産卵シーズン>フーフーと息みながら産卵するアカウミガメ=5月31日未明、糸満市
県の許可を受け、卵の数や大きさを調査する調査ボランティアたち。調査後に卵は埋め戻す