精巧あめ細工 九州一に輝く 金武の安富祖さん


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 【金武】金武町金武の洋菓子店「オキナワ・フュージョン・パティスリー・モンクレア」のオーナーシェフ・安富祖光将さん(28)が、5月20日に福岡県で行われた「2015全九州洋菓子実技コンテスト福岡大会」で最優秀賞を受賞、九州一の技術を認められた。

安富祖さんは出場のきっかけを「足を運んでくれるお客さんに喜んでほしかった」と語る。
 大会では作品を4時間以内で制作する。安富祖さんの受賞作品「躍動感」は、水しぶきを上げてダイナミックに泳ぐ金魚と、花びらを大きく広げて咲くヒマワリが色鮮やかに表現されている。
 宜野座高校2年の時にテレビで見たヨーロッパのあめ細工に衝撃を受けた。高校卒業後、東京で1年間製菓の専門学校に通い、その後6年間は東京の店で修業した。23歳の時には、23歳以下の全国大会で優勝した経歴もある。
 12年に地元・金武町で今の店舗を開店させた。沖縄の素材をフランス菓子と融合させる安富祖さんならではのスタイルは、店名の一部「オキナワ・フュージョン(沖縄との融合)」にも表れている。
 「受賞をきっかけに金武町がさらに活気づいてほしい」と話す安富祖さんは夢である世界大会出場に向け、来年は国内予選に挑む予定だ。

◆天国の少女にも受賞報告

 今大会で、安富祖さんはある少女に向けた強い思いを秘めて臨んでいた。常連客の高里尚史さん(43)=金武町=の娘で、1年半の闘病生活の末、5月の大会前に脳腫瘍のため18歳で他界した高里萌さんだ。萌さんもパティシエを目指していた。高校生の時にパティシエを志した自身と重なり、安富祖さんは「何とかいい報告をしたい」と誓っていた。
 尚史さんに最優秀賞受賞を報告した時、特に萌さんのことは触れなかった。尚史さんもただ「わざわざ(客の一人である)自分にも報告してくれるなんて」との思いだったという。
 取材を通して初めて安富祖さんの気持ちを知った尚史さんは、声を振り絞るように「何も言葉が思いつかない。ただありがたい」と感謝の気持ちを語った。
 萌さんは「モンクレアは本物。ほかの物をたくさん食べるより、いい物を一つだけ食べたい」と話していたという。だから尚史さんは、萌さんに買って帰るために通い始めた。母の佳子さん(50)は「ぬちまーすプリンが一番好きだった」とうれしそうに思い出す。
 萌さんが入院して一時期、病気の影響で甘い物が食べられなくなった。尚史さんは、ケーキの形のあめ細工を安富祖さんに依頼した。せめて見た目だけでも大好きなスイーツを楽しんでほしいという父の思いがあった。
 あめ細工を通して一組の家族の絆を強めた安富祖さんは「これからも上を目指していい報告をしていきたい」と話した。(長浜良起)

<九州一>作品の横で賞状を手に笑顔を見せる安富祖光将さん=5月26日、金武町の「オキナワ・フュージョン・パティスリー・モンクレア」
安富祖さんが入院中の高里萌さんに作ったケーキのあめ細工