【キラリ大地で】アメリカ/金城貴夫さん(41) 最先端の医学を研究


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米国立衛生研究所(NIH)でATLの研究に当たる那覇市出身の金城貴夫さん

 メリーランド州にある世界最大の医学生物研究機関・米国立衛生研究所(NIH)に、那覇市出身の金城貴夫博士(41)が研究員として赴任し、1981年に発見された成人T細胞白血病(ATL)の原因となるヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV―1)の感染症ウイルスの研究をしている。

 金城さんは琉球大学医学部病態解析医科学講座細胞病理学分野に籍を置いている。NIHでの研究期間は2年間の予定で、昨年10月に赴任、研究を始めている。
 NHIは、所内に27の研究所を擁し、世界各国から集まった専門家や研究者が最先端の医学研究に当たっている。
 金城さんが研究しているATLは、日本では九州、そして沖縄でもHTLV―1感染者が多い。ただ、発症するまでの潜伏期間が長く、発症者も感染者のわずか数パーセントと、発症メカニズムも含め謎が多い、という。
 研究はその発症のメカニズムの解明。そのために、いま2つのプロジェクトに取り組んでいる。1つは、HTLV―1ウイルスの遺伝子Taxは細胞内のシグナル伝達経路の1つNFkB(本来、細胞増殖や細胞死の抑制等に関与している)を活性化させ、発症させると考えられている。
 しかし、NFkBには2つの経路があり、Taxが2つの経路のどちらかをどの程度活性化させるのか。さらにTaxと相互作用するNEMO伝達因子以外に、どのような因子が関与し、細胞に及ぼす影響を究明すること。
 2つ目は、Taxがどのようにがん化し、細胞腫瘍(しゅよう)をつくるかを知るための動物モデルをつくること。腫瘍化してないヒトの細胞にTaxを導入し、がん化に関与する遺伝子を発現させて腫瘍細胞をつくる実験だ。
 金城さんは、これまで感染症ウイルスの研究と病理診断・解剖を専門として、臨床医学にも携わってきた。
 NIHでの実験が成功し、ATL発症のメカニズムが解明されれば、将来はHTLV―1感染者のATL発症に歯止めをかけることも可能になる。
 「NIHに来て、キャンパスの規模と研究者に与えられる予算規模の大きさを認識した。ラボ(研究所)には、世界中から研究者が来ていて、刺激になる。沖縄に戻ったら沖縄の疾患に関する研究を深くやっていきたい」と語る。
 毎日朝8時から夜9時まで、週末も研究に没頭する日々を送っている。そのかたわらで、詩子夫人(内科医)とともに遠出をしたり、外国からの研究者らの家族とのパーティーを開催するなど、アメリカでの暮らしも楽しんでいる。
(鈴木多美子通信員)