社名や肩書きが変わっても声が掛かる人、掛からない人【働き方改革@沖縄(19)】


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「終身雇用を前提にすることが限界になっている」
2019年5月、経団連の中西宏明会長がこう発言しました。

企業の統廃合や事業転換が進み、自分の仕事がなくなるということがすでに現実になっていると言われています。

あなたは今の企業から離れても、生きていける人材になっていますか。
「この人が欲しい!」と思われるように、自分の市場価値を高めていますか。

変化の激しい時代に魅力的な人材として活躍し続けるには、以下の2つのポイントに集約されると考えています。

1,今の職場を離れても活かせるようなスキルや経験を積んでいるか
2,◯◯さんだったら信頼できるという人間関係が構築できているか。

筆者の経験も交えながら、今の組織にいながら市場価値を高める方法をを紹介していきたいと思います。

◇執筆者プロフィル

波上こずみ(なみのうえ・こずみ)
Cosmic Consulting(コズミックコンサルティング)代表。組織コンサルタント。

子育て・介護と仕事との両立に苦しんだ経験を踏まえ、2016年に起業。
「働く人のモチベーションを組織の活力へ!」をテーマに、沖縄の企業や個人を対象としたコンサルティングを手掛けている。
那覇市首里生まれ。1男1女の2児の育児中。

人事異動にチャンスあり

筆者は前職で県の外郭団体の職員として働いており、入職から数年間は、主に沖縄観光の誘致や受入活動という事業に携わっていました。多岐に渡る業務で、貴重な経験することができ、とてもやりがいを感じながら業務に取り組んでいました。

そんな中、プライベートで結婚、第一子、第二子の出産を経て、育児休暇から復帰。
「働き方改革」という言葉自体もまだなかった時代です。現場で働くにはどうしても出張や残業などに対応できることが望ましいとされていたので、育児休暇から復帰したことを組織側も考慮して、筆者は総務部へ異動になりました。

筆者自身、現場が大好きで以前のように仕事は続けたいと思う一方で、二人の子育てをしている間は到底現場では働けないという諦めもあり、総務への異動を受けざるを得ない状況でした。

総務で働き始めた頃は、あまりにも畑違いのことばかりで戸惑う毎日。労務管理、数値管理、人事、庶務。現場で働いていた時には全く知らなかった仕事ばかりで、「何の知識もない自分がどうしてここにいるのだろう。自分に何ができるのだろう・・・」とモヤモヤとした気持ちを抱えながら日々過ごしていました。

その時に上司から「職員の人材育成に本腰を入れたい。担当に任命するので頑張ってほしい」という指示があり、組織初となる人材育成の業務を担当することに。セミナーに参加したり、専門家の力を借りたり、本を読んだりしながら、なんとか職員育成プログラムを組み立て、実行していきました。

その間、プライベートでは新たに実父の介護問題に直面し、自分自身の働き方やキャリアをさらに見直すことになりました。
とても悩んで考えた結果、退職し独立を決意。「自分がやりたいことや自分にできることは何だろう」と深く考えた結果、総務での経験を生かして「組織づくり」や「人材育成」をテーマとしてコンサルタントをやろう!と決断。

そこから少しずつ仕事が広がり、現在に至っています。

おかげさまで、今では80社以上のコンサルティングを実施し、100件以上の研修に登壇しております。
ご相談頂く企業での窓口はほとんど総務の方、つまり以前の自分と同じ状況に置かれている方々が多く、前職での経験が生かされていると感じています。

今の状況は、前職で総務に配属された時には全く想像もしていなかったことです。

〝現場に配属された自分〟しか見えていなかったところから、総務での経験と自分の生き方がクロスされ今の仕事につながり、自分にしか提供できない付加価値になっていると自負しています。

〝経験〟を価値あるものにするために

企業のコンサルティングを行う際、組織内の課題を整理するため現場社員の方々から現状ヒアリングをすることがあります。

そんな中で、今の仕事や業務にやりがいを感じておらず、「なぜその業務を自分がやらなければならないのか」という不満を抱えて仕事をされている社員の方が時々いらっしゃいます。

かつての自分と同じ状況で「そういう気持ちは確かに分かる」と共感できる部分もあるのですが、断片的にその仕事の成果や価値を決めつけるのは勿体無いなと感じます。

最初は自分の意思とそぐわなかったとしても、一つ一つの仕事を通して得られるスキルや経験は、自分のキャリアのどこにつながるかわからないと自身の経験を通して強く感じています。

逆に言うと、今の職場だけで通じるスキルや経験だけで満足せずに、例えば今の企業を離れても通用するスキルや経験を意識的に積んでいるか、ということが大変重要になってきます。

一見関係ないかもしれない業務からでも、その経験に意味づけをし、自分の力に変えているか。

「◯◯会社の波上こずみ」ではなく、「波上こずみ」という個としての市場価値を高めることができているか。

多様な働き方が存在する時代だからこそ、キャリアを自分自身でしっかりと切り開いていくという意識が求められているのではないでしょうか。

「一緒に仕事したい!」と浮かぶ顔

自分の市場価値を高めるために、ぜひ皆さんに知っていただきたいことがもうひとつあります。

それは、社内ではもちろん対外的にも「この人だったら一緒に仕事がしたい!」という他者との信頼関係が築けているかどうか。

例えば筆者の経験からお伝えします。前職で一職員として「決められた役割をこなし責任を持って与えられた仕事をする」という姿勢から、独立して「自分で仕事を作る」という方向に仕事の仕方が変わると、自分の専門分野以外は他の組織やフリーランスの方々の力を借りながら事業を進めるスタイルに変わっていきました。

その際、例えば
「HPの制作ならあの企業の◯◯さんにお願いできないかな」
「この専門分野だったらフリーで活動している◯◯さんが得意!依頼してみよう」というように、今までの繋がりをつたっていきお互いで連携を取りながら仕事を進めていきます。

他者から見て自分がその時に思い浮かぶ「◯◯さん」になっているかどうかは、それまで一つ一つの業務を通して他者といかに信頼関係が築けているかが鍵になります。

今までそれはフリーランスや起業した人だけの観点だったかもしれませんが、オープンイノベーション(※)が加速し、様々な企業が他社異業種とのコラボレーションにより新規展開を進めていくこれからの時代においては、企業に属する社員も自分の強みを生かしながら他者(社内外)と協働していくということが不可欠になってきます。

そういう視点で、他者から見て「この人とだったら信頼できる!一緒に仕事がしたい!」という信頼関係が築けているでしょうか。

感謝すべきことに筆者の場合、今までのご依頼は、元をたどると半分以上は知人や元同僚、前職で繋がった方々からのご紹介や情報から。

会社員でもフリーランスでも、やっつけ感ややらされ感ではなく、その仕事の目的やビジョンに共感し、その仕事を通して良いものを提供していきたいという姿勢がとても大事ではないでしょうか。

その中で、「◯◯さんとだったらまた一緒に働きたい!」と思える信頼関係を築いていくことが、自身のキャリアにも大きく影響するのではないかと思います。

※「オープン・イノベーション」とは、社外から新たな技術やアイデアを募集・集約し、革新的な新製品(商品)・サービス、またはビジネスモデルを開発するイノベーションを指す(BizHintより)。

「働かされる」か「働く」か?

自分の価値を高めるポイントをお伝えしてきましたが、いかかでしょうか。

終身雇用が終わるということは、一生同じ会社で働くわけではない。その会社を退職しても生きていけるスキルや経験を身につける必要があるということ。
協働しあえる他者との関係性ができていることが大変重要になってきます。

どんな雇用形態であれ、「働かされる」時代から「自ら主体的に働く」へ。
ひいては、自分の人生を大事にしていくことができる人材こそが、これから求められる人材ではないでしょうか。

【執筆者プロフィル】

波上こずみ(なみのうえ・こずみ)
Cosmic Consulting(コズミックコンサルティング)代表。組織コンサルタント

那覇市首里出身。株式会社JTBワールド、一般財団法人沖縄観光コンベンションビューローを経て、2016年Cosmic Consulting設立。
【働く人の生き生きを組織の活力へ】をビジョンとし、主に働き方改革や人材定着、人材育成プログラム構築、組織開発など、人事面から変革を起こすための組織活性コンサルティングを行っており、マスコミ、福祉法人、ホテル業界、飲食業界等、多種多様な業界に対してのべ100社以上のコンサルティング実績を持つ。
コズミックコンサルティングのHP→http://kozumi-naminoue.com/