〝擬人化〟の人間心理を知りたくてー本村ひろみの時代のアイコン(22)堀本達矢(ケモノ美術作家)


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

「母が動物王国のムツゴロウさんを尊敬していて、ずっと生き物がそばにいる環境でした」と堀本達矢さんは人懐っこい笑顔で話してくれた。
物心ついた時からそばに生き物がいる。子供の頃に犬や猫、ハムスター、鳥、亀や魚に昆虫を飼った経験のある人なら“動物好き”になる気持ちは理解できる。しかし堀本さんの興味は次第に「生きている動物」から「擬人化された生き物たち」へと変化していった。彼の作品に表現される、不思議な生き物たちの誕生を知るために、まずはそのバックグラウンドとなる彼の少年時代の話を聞いてみた。

キーワードは「ケモノ」

1993年生まれの堀本さんが子供の頃は、遊びといえばゲームが主流。この世代の子どもたちを語るうえで欠かせないのは1996年に誕生したポケットモンスターだ。ポケモンは社会現象になり当時の小学生を中心に爆発的な人気となった。不思議な生き物が生息する世界で、架空のモンスターと友情を育くみ、バトルを経験した世代。ポケットモンスターはその後、アニメ化、キャラクター商品化などメディアミックス展開をしてその世界を構築していった。
 「ポケモンのアニメはゲームよりも擬人化が強く表現されているんです」と堀本さんは言う。バーチャルな世界の疑似体験は、新しい感性を生み出すきっかけになったに違いない。彼はそんなポケモンのアニメやゲームに触れて育ち、ディズニー・アニメーションの「ライオンキング」に感動したり、車が喋るゲームにハマったりと常に「擬人化」されたものに影響を受けてきた。

制作中の様子
制作中の様子

そして中学生になりインターネットで世界がいっきに広がった。
彼のなかで漠然としていた興味の対象が、すでにネットの世界ではポジションが確立されつつあった。
キーワードは「ケモノ」。
サブカルチャーの世界において、今ではひとつのジャンルとして豊かな文化を築いている「ケモノ」も、当時は発展の過程にあった。多感な思春期の中学・高校時代、彼は「ケモノに興味がある事が恥ずかしく隠していた」という。
しかし一方で、ネットの掲示板にイラストを描くなどしてオタクカルチャーに傾倒していった。

変身願望

京都造形芸術大学1年生の時、転機が訪れた。教授で現代美術作家のヤノベケンジ氏企画の「アートコンペ」で堀本さんの「作品プラン」が選ばれ、そこでのディスカッションで、ヤノベ氏が彼のうちに秘密裡に存在していた「ケモノ」という概念を引き出してくれた。その時制作した作品「me」は自分自身の分身として表現され、グランプリを受賞。ケモノになりたいという「変身願望」から、自分の遺伝子を作品に落とし込むという意味も込め、自分の髪の毛を作品に植毛してリアルさを追求した。

『me』

学部時代はそのあとも「ケモノになりたい」シリーズを展開していくが、卒業制作でガラリと作風を変えた。
作品「leave」。
石粉粘土や木粉粘土で制作した球体関節人形の作品は、彼の中で「変身願望」から新しい解釈の「ケモノ」の誕生となった。

『Leave』

沖縄での時間

沖縄に来てからは、集中してケモノと向き合う時間が増えたそうだ。
それまで「自分本位」でみてきたケモノが、「ケモノその物の在り方」と向き合う時間となった。「ケモノ」という概念の研究調査をはじめ、現在はサブカルチャーとしての動向や傾向もリサーチしている。
そんな豊かな時間を反映してか、沖縄県立芸術大学の院生時代の作品には伸びやかさを感じる。
大学の構内のベンチに座る不思議な生き物と、その生き物を見つめる女の子。穏やかなこの作品のタイトルは「meet」。
四肢が複雑に絡む「マウンティング」
勇壮に立ち上がる「在るケモノ」など、大きな立体作品を次々と制作した。

『meet』
『マウンティング』
『在るケモノ』

3月、沖縄から旅立つ前に最後の個展が開催される。
「Meet the KEMONO」ケモノと出会う 第4回 刺激編
(3月1日~8日。11時~20時。最終日のみ19時)
刺激的で鑑賞者を惑わす存在のケモノたちがギャラリーPINUP(宜野湾市真栄原2-19-1)にお披露目される。配布用のDMもあっという間に姿を消す勢いで注目されている。
堀本さんのケモノファンは今、全国に増殖中だ!

3月の個展のDM

【堀本達矢 プロフィール】

堀本達矢(ほりもと・たつや)

1993 三重県生まれ
2016 京都造形芸術大学 美術工芸学科総合造形コース 卒業
2018 沖縄県立芸術大学 大学院造形芸術研究科環境造形専攻彫刻専修 修了
2018〜 沖縄県立芸術大学 美術工芸学部美術学科彫刻専攻 教育補助専門員

<制作コンセプト>
「ケモノ」とは、動物に人間の感情、感覚、言語、外見、身振りなどを含ませた擬人化表現である。そんなケモノは世界的に存在しており、その歴史は長く旧石器時代から現代まで続いている。芸術や童話に登場するケモノ、宗教や商業に登場するケモノ、憧れや欲望の対象としてのケモノなど、今でも様々な場面で見かけるケモノは人間と切っても切れない関係となっている。そんなケモノに対して幼い頃から興味を持っていた私は、自身を含む「ケモノ」を生み出す人間の心理的な要因に着目した。動物たちを動物そのものではなく、あえて擬人化を施し表現する人間たち。そこには一体どのような心理が働きケモノを生み出しているのか。そのケモノたちを人間たちはどのように見て認識し、触れ合っているのか。そして私自身もケモノに対して憧れさえ抱いている。このような人間の心理を追求し、人々が「ケモノ」の存在を改めて認知するために、立体作品を制作している。

<主な受賞歴>
2018 第29回沖縄県立芸術大学卒業・修了作品展 北中城村長賞 (沖縄)
2015 京都造形芸術大学 卒業制作展 奨励賞 (京都)
2014 ULTRA AWARD 2014 オーディエンス賞 (京都)
2012 ULTRA AWARD 2012 オーディエンス賞 秋元康賞 最優秀賞 (京都)

Twitter:https://twitter.com/HORIMOTO_T

【筆者プロフィール】

本村ひろみ

那覇市出身。清泉女子大学卒業、沖縄県立芸術大学造形芸術科修了。
ラジオやテレビのレポーターを経てラジオパーソナリティとして活躍。
現在、ラジオ沖縄で「ゴーゴーダウンタウン国際通り発」(月〜金曜日 18:25~18:30)、「 WE LOVE YUMING Ⅱ 」(日曜日 19時~20時)を放送中。