子どもの権利条約(以下「権利条約」)にフォーカスした連載企画3回目のゲストは、えくぼママのメンバーで元教諭のアサミさんです。
アサミさんは高等学校の社会科教諭として、12年前に初めて教壇に立ちました。ところが赴任先は普通校ではなく特別支援学校だったそうです。実習経験のない現場に最初は戸惑ったそうですが、「一人ひとりの子どもに差異があるのは当たり前」と情熱を持って仕事をする先生方から大きな影響を受けたそうです。
現在、5歳と0歳のお子さんを育てているアサミさんに、権利条約の軸にある人権尊重が特別支援学校でどう実践されているのか、またハンディキャップがある子どもたちの成長について話を聞きました。
―社会科の先生として勤務している時、子どもたちに権利条約を教えたことはありましたか?
私は複数の学校(養護学校、盲学校、ろう学校)にトータルで7年ほど勤務していました。図書館司書の資格もあったので、実は社会科ではなく国語科の教諭としてクラス担任を受け持っていたんです。なので、授業の中で権利条約を教える機会はありませんでした。子どもたちが権利条約を最初に学習するのは小学6年の社会ですが、さらっと概要を説明するくらいではないでしょうか。実生活に直結する“自分ごと”として教えてくれる先生はまれで、子どもたちにとっても権利条約は「勉強」「知識」の一つでしかなく、当事者意識を持つことは少ないと思います。
―現役時代は同僚の先生方から学ぶことが多かったそうですね。
特別支援学校では生徒のことは担任の先生が一番よく知っています。その子のための綿密な指導要領があり、指導計画にも重点を置いています。学校もそのことを大切にしているので担任のやり方を尊重し、任せ、フォローする体制がとられていました。私が尊敬しているある先生は特別支援学校の教育を「教育の原点」と言っていました。教師は一人ひとりに合わせた教育をする。子どもたちはそれを受ける権利がある、と。先生も親御さんも子どもの学ぶ権利を守る強い思いがあり、実際にとても尽力されていました。
―もう少し特別支援学校のことや子どもたちについて聞かせてください。
「たいようのえくぼ(Vol.32)」裏表紙の漫画に、微熱だけど学校を休みたいと訴える子と仕事を休めないママのやり取りがありましたよね。これに関しては特別支援学校も「学校には行くべき」「がんばることが大事」という価値観が根強くあります。少なくとも私が現役だった頃は子どもの休む権利はほとんど認識されていませんでした。前に生理痛がつらそうな生徒がいました。でも彼女の母親は「生理痛なんてたいしたことない」という考えで、娘に登校を強いるようなことがありました。その時、自己決定権の観点からモヤモヤしたのを覚えています。
―ハンディキャップがある・なしに関係なく、上下関係や力関係はありますよね。
子どもの権利と言いながらも決めるのは親。現実的に休ませられないのも分かりますが、そもそも大人に権利という感覚が根付いてないのが問題です。大人が分からないから、子どもに教えられない。権利とは何かを「体感として知る」経験が大人も子どもも不足していると思います。特別支援学校は普通校と違って競争、比較、評価は気になりません。基本的にどの子に対してもやさしくて寛容、つまり人権を尊重する土壌があるので、小さな成長を日々喜び合いながら子どもたちは自分らしく学べる環境にあります。
―自分の子どもをもったことで、アサミさん自身に何か変化はありましたか?
子どもの権利と親である私の権利。どちらが優先され、どうバランスをとるのかを考えるようになりました。例えば、息子が保育園に行きたくないと言った時。私にも予定があり、特別な理由がなければ園に行ってほしいわけです。普段から(小さい子は自分で責任がとれないから)園には行くものだよ、という態度で接しています。でも行かないと言う時は、お互い納得できるまで話し合っています。子どもが分かる言葉で説明し、プロセスを見せ、時には交渉もする。一筋縄ではいきませんが重要なポイントはことあるごとに繰り返し伝えています。まず親子で率直に話し合えること。信頼感や対等な関係を築くには、それの繰り返ししかないと感じています。
★子どもの権利を考えるオススメ本
『大人問題』
著:五味太郎
出版社:講談社文庫
子どもに対して◯◯させなきゃ、ちゃんとしてなきゃ、と構えてしまう大人(親)の、ガチガチに固まった頭と心をふっと楽にしてくれる良書。
(えくぼママライター やけなみわ)
☆ プロフィル ☆
やけなみわ
神奈川県出身の二児の母。元編集者・ライター。現在は小学校のPTA活動を中心に、子ども食堂のボランティア、平和・環境活動、親子英語クラブの運営に携わる。趣味は観劇。旅行。スキューバーダイビング
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