ロシアで確立した、アーティストとしてのオリジナルスタイルー本村ひろみの時代のアイコン(37) 根路銘まり(染色芸術家)


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作品「静寂」を着て。モスクワ東洋芸術美術館にて。写真 Alexander Dvoriankin https://realbigant.com/

「華のある人」
染色芸術家・根路銘まりさんは、第一印象から目の離せない雰囲気のあるたたずまいをしていた。黒目がちな大きな瞳で相手の心にまっすぐ話しかけてくるような感じ。彼女と話していると、エキゾチック、オリエンタル、日本画の美人画に出てくるような女性…まりさんを表すさまざまなイメージが心に浮かんだ。日本髪を結い、ガジュマルの木をモチーフに自分で染めた着物をまとうまりさんが放つオーラは、ロシアの人たちや海外の人たちをとりこにするに違いない。自然に身についた作家としての魅せ方は天性のものだと感じた。

2019年6月、サンクトペテルブルクの国際フラワーパレードにて。染めのアーティストとして参加し、花魁役で登場した

まりさんは子どもの頃からファッションに興味があった。高校生の時、ファッションの仕事をすることを夢見て、祖母の友人でデザイナーの仲井真文子さんのもと「ファッションデザイン画」(琉球新報カルチャースクール)を学んだ。週に1回、毎週月曜日に通うデザインのレッスンは待ち遠しいほど楽しかったそうだ。そして、めきめき実力を発揮したまりさんは、若手のファッションデザイナーの育成を目的とした「第1回FDRデザイングランプリ」の高校生部門で金賞を受賞した。

それまでは東京の文化服装学院への進学も考えていたが、伝統技法を使って生地を染める方法を学びたいと考え、これまで経験したことのない「染め」を学ぶため沖縄県立芸術大学へ進学した。

休学してロシアへ。日本文化、染めを学ぶ意欲を刺激した経験

在学中1、2年はがむしゃらに学んだ。ところが3年を過ぎたころからその勢いと情熱に陰りが見え始めた。自分のやりたいことや将来の方向性が定まらず、このままでいいのかと悩んでいたところ、母親がモスクワの日本語学校へ赴任することに。母親の誘いもあり、大学を休学して2年間モスクワへ行くことになった。ロシア語が全くできなかったまりさんは、モスクワ大学の付属語学学校でロシア語を学ぶことにした。現地の人の優しさに助けられ、1年たったころからロシア語で意志の疎通もできるようになった。

ロシアへ行く前、大学3年の時の作品「静寂」

モスクワに住んでいた頃、日本文化フェスティバルにも参加し、そこで手作りのかんざしを発表したところ、地元の人々が関心を寄せてくれ大好評だったそうだ。“日本文化に興味があるロシア人” “日本語を学んでいるロシア人”の人たちと交流を持つようになったことで、まりさんに日本の「文化」や「染め」を学ぶ意欲が戻ってきた。

日本大使館などが主催するモスクワのジャパンフェスタにて。かんざしなどを展示販売した
海外でも大好評のかんざし、ブローチ、ピンバッチ

モスクワから帰って大学へ戻り、再び「染め」についてがむしゃらに研究に励んだ。それまでの遅れを取り戻すかのように、卒業制作ではなんと1年間で振り袖を3反染め上げるという仕事を成し遂げた。

卒業制作「残照」。2018年卒業・修了作品展図録の表紙にもなった
卒業制作「天照大御神」。2019年日本新工芸展入選。上野の森美術館奨励賞受賞
卒業制作「神生み(かみうみ)」。4メートルもある大作。生と死によって紡がれる生命の神秘を表現した作品。 古事記の中に記されている事柄「神生み」から題名をとった

オリジナルスタイルをつくる三つのこと

まりさんには三つのキーワードがある。
1.「ガジュマル」神の宿る場所
大学3年生の頃、久高島にスケッチ旅行へ行った際、出合ったガジュマルにインスピレーションを受け、それ以来ガジュマルは「染め」の重要なモチーフに。
2.「神話」特に日本神話
神々しいものにひかれる。色使いは濃い赤や紺、墨汁を使用した深い黒の中に透明感のある青、緑、だいだい色などを取り入れることで自然の呼吸や血流、生命力などを表現している。
3.「着物」スタイル
日本髪も自分で結うため、髪の毛の長さは1メートル20センチを超えている。花魁ヘアも完全に自分のオリジナルスタイルを構築し、かんざしも手作り。着付けも髪型もインターネットで学んだおかげで、ロシアから戻ってきてからは、普段から着物の生活を楽しんでいる。
 

今年2月にスイス・ローザンヌの日本文化イベントに招待され、出展と体験クラスで「つまみ細工の髪飾り教室」を開催。日本の美しい文化を海外にお披露目する場が多いまりさんだが、今は県立芸術大学大学院生として制作に没頭する日々だ。

2020年2月、スイス・ローザンヌの日本文化イベントにて。体験クラス「つまみ細工の体験教室」の様子

7月には若手アーティストのキャリア形成につながる登竜門「三菱商事アート・ゲート・プログラム」の公募で奨学生に入選。現在その作品も制作中。ガジュマルをモチーフにパネル型の作品を大小合わせて5点。そしてその他にも着物も制作中。すべての熱量を制作に打ち込んでいる。

2021年には、沖縄県内での個展を予定している。時期はまだ未定だが、ロシアの美術館での展覧会の予定もある。これからもヨーロッパでの発表の機会を増やして「海外の人にもどんどん作品を見てほしい!」と抱負を語るまりさんは、すでに世界で活躍するうちなーんちゅだ!

【根路銘まりプロフィール】

根路銘まり

沖縄県立芸術大学にて、伝統工芸である紅型をはじめさまざまな染め方を学び、中でも着物染色の奥深さに魅了される。制作では、主に神話や神々を題材に着るためのみならず、絵として鑑賞できる着物作品(飾り衣装)を多く手掛ける。また、古典技法と自身の感覚とを融合させ、形式にとらわれない大胆な柄や色使いをすることで独創的な世界感を作品の中に表現する。

【ホームページ】https://www.marinerome.com/
【オンラインショップ】https://www.maris-collection.com/
【Instagram】https://www.instagram.com/neromemari/

【筆者プロフィール】

本村ひろみ

那覇市出身。清泉女子大学卒業、沖縄県立芸術大学造形芸術科修了。
ラジオやテレビのレポーターを経てラジオパーソナリティとして活躍。
現在、ラジオ沖縄で「ゴーゴーダウンタウン国際通り発」(月〜金曜日 18:25~18:30)、「 WE LOVE YUMING Ⅱ 」(日曜日 19時~20時)を放送中。