「非行」と向き合う親たちの会 井形陽子(さんぽの会・世話人代表)


「非行」と向き合う親たちの会 井形陽子(さんぽの会・世話人代表)
この記事を書いた人 佐藤 ひろこ

 「だまされたと思って行ってみたら?」。息子のことでいつまでも悶々(もんもん)としている私を心配した母が、県外にある「『非行』と向き合う親たちの会」の情報を持ってきた。「悩んでいる人たちの集まりに行ってどうなるの」と何度か断ったが、母のしつこさに負けて渋々行くことにした。悩むことにも疲れてきて、半分投げやりな気持ちにもなっていた。

 恐る恐る会場の扉を開けると、わが子の「非行」について親たちが順番に話している。「ここまで話して大丈夫?」とビックリした。夜遊び、飲酒、喫煙、暴走、窃盗、暴力、逮捕…。涙を流しながら、言葉を詰まらせながら、重たい話をとても穏やかな表情で話す人もいた。子どもが「非行」真っただ中の人も、少し峠を越えた人も、真剣に話し合い、聴き合っている。その日は緊張のあまりひと言も話せなかったし、解決策をもらったわけでもなかったが、帰りにはなぜか少しだけ心が軽くなっていた。沖縄にもこんな場所があったらいいな…。 

さんぽの会・世話人代表の井形陽子さん

 そうして「さんぽの会」が誕生した。非行に関する知識もネットワークもない私には、真っ暗なトンネルの中で悩んだ経験だけが頼りだった。「批判や非難をしない」「ここでの話を外に持ち出さない」など五つの約束を大事にしながら、親たちがホッとひと息つける時間になるように毎月1回、会を開いている。私にとっても自分の失敗体験を堂々と話せる貴重な場所だ。

 子育てをしていると、いろんな壁にぶちあたる。中でも「非行」は、なかなか気軽に相談できないし、親しい人にも話しにくい。専門家の力が必要な時もあれば、嵐を経験したお母さんお父さんの言葉がすごく参考になることもある。何よりも、安心して悩みや愚痴を吐き出せる場所と仲間の存在はとても大きい。

(2016年5月27日付琉球新報掲載)

 

井形陽子(いがた・ようこ)
 おきなわ「非行」と向き合う親たちの会(通称さんぽの会)世話人代表。家族は22歳息子、20歳娘。同会を2013年6月に立ち上げ、子どもの「非行」や「問題行動」、思春期の荒れや揺れについて、親たちで悩みを話し合う月例会を開く。県内小中学校で子どもへの暴力防止プログラム、思春期講座を提供する活動も。1968年生まれ、長崎県出身。