広がった「AEDセクハラデマ」と、その裏で築かれる偏見 モバプリの知っ得![36]


広がった「AEDセクハラデマ」と、その裏で築かれる偏見 モバプリの知っ得![36]
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

12月20日、AED(自動体外式除細動器)に関するTwitterの投稿が話題になりました。

“AEDを使用する際服を脱がすわけですが、社内アンケートの結果「男性にされたらセクハラで訴える」という女性社員が多かったため、女性社員が倒れていたときの救助活動一切を女性にさせ、男性しかいないときは女性を呼び出すか、契約書に本人の署名をしてもらってから救助する。という会社に遭遇した。”

この投稿は瞬く間に、拡散。
見た人からは「訴えられるから、女性が倒れてても救助しない」「すぐにセクハラで訴えられて怖い時代だ」などのコメントが寄せられました。

AEDは突然心臓が止まった時などに、電気ショックを与えて心臓の動きを復活させる機械です。AEDの電極パッドを衣服の上から使うと、衣服が燃えてしまう可能性があるため、直接肌につける必要があります。
そのため女性にAEDを使う場合、衣服を脱がす・切るなどして胸をはだけさせる必要があります。

先の投稿では、AEDを使った救助行為を「セクハラとして訴えられる」とまとめていました。

しかし12月22日に、投稿者はこの投稿が創作であることを明らかにし、謝罪しています。

ちなみに、救助の中で胸をはだけさせる行為は命を救うためにはやむを得ないため、セクハラにはなりません。(ただし、周囲の人と協力し、壁を作るなど一定の配慮が必要です)

つまり先にあげた投稿は結果的に「AEDに関する間違った認識を広めるデマ」ということになります。
 

イラスト・小谷茶(こたにてぃー)

定番となっている「AEDセクハラデマ」

実はAEDセクハラデマはネット上で定期的に発生する、定番ネタになっています。
そのため「今回の投稿者が悪い」で片付けてはいけない話です。

話の細部は変わりつつ「AEDを使うために女性を裸にしたら警察を呼ばれた」と言った共通のストーリーで、最後は「女性は助けない方がいい」「すぐセクハラ認定されて男は辛いよ」と言った結論になります。

前述したように「救助として適切な行為」はセクハラに当たりませんので、こうしたデマは適切な人命救助を阻害する間違った認識を広げていることになります。
本来助かるはずの命が、こうしたデマがきっかけで救われないのだとしたら、とても悲しいことです。

かくいう私もAEDの使い方は「なんとなく」でしか理解していませんでした。
これをキッカケに、改めて適切な使用方法を予習すると、いつか誰かの命を救うことになかもしれません。

総務省消防庁―救命処置の流れ(心肺蘇生法とAEDの使用)

 

デリケートな問題を、デマによる偏見で考えない

さらにこうしたデマでは「セクハラ」に関する偏見を助長することにもなります。

「何かあると男はすぐにセクハラで訴えられ、社会的に抹殺される」という意見です。

実際「痴漢冤罪」などの事例もあるため、こうした懸念を抱く人がいるのも理解はできます。ただし、今回の事例は、「作り話」であり「デマ」です。

セクハラの告発は冤罪を生む可能性もあるため、本来とてもデリケートな事象です。
セクハラを野放しにしてはいけませんし、かと言って冤罪を容認するわけでもありません。どちらも発生させないために、丁寧かつ慎重に考えなければいけません。
だからこそ、デマを基に考えてはいけないのです。
デマを信じてはいけないのです。
デマを容認してはいけないのです。

現在、女性がセクハラを告発する#MeTooというムーブメントが広がっています。
このムーブメントも、セクハラが抱え持つ構造について本質的な問題点が広く認知されないと、定着せずにただのブームで終わるでしょう。だからこそ、丁寧かつ慎重な議論が必要です。

SNSで広がる#MeTooムーブメント 告発者バッシングに転化させないために考えたいこと モバプリの知っ得![37]

AEDのデマに類似したデマを信じ、間違った「セクハラ感」を築いた人もいるかもしれません。

#MeTooの動きでも「やはり、男は『セクハラ』と言われたら終わりだな」といった、意見が多く見られます。

しかし、「セクハラと言われたら終わるな」と信じて、考えるのをやめてしまってはセクハラがはびこる社会の、現状追認にしかなりません。世の中が新しい価値観で前に進もうとしても、デマを基にした偏った考えが邪魔をすることはとても大きな損失だと思います。

デマが偏見を助長することは、何もセクハラだけの話ではありません。
11月に沖縄県内を中心に広がった「乾燥海産物」のデマがあります。

「路上で乾燥海産物を〜」 広がるデマ、広げてはいけない理由 モバプリの知っ得!
“先程、教育委員会から来た情報です。
なるべく多くの方に教えてください。

警察署に通う方から来たメールです。
必ず読んで下さい‼
知らない人が路上で接近して来て、乾燥海産物をおすすめして、販売しようとしながら、一回味見をしてとか、臭いを嗅いでとか言われたら、絶対絶対しないでください。

海産物ではなく(エチルエーテル)1種類の麻酔薬で、臭いを嗅いだら意識を失う。中国から来た新しい犯罪である。
周囲へ広く知らせて下さい。実際、事件発生、臓器売買してるそうです。特に、友達や親戚に是非伝えて下さい。

周辺の知人達に、巻き込まれないように周りの方に伝えて下さい。
用心するに越したことはないので皆さん気をつけてください‼”

 

このデマでは「中国から来た新しい犯罪です」と中国人が関与しているかのような、何気ない一言が含まれています。
デマを広げた人は「中国」という言葉が入っていたから広げたわけではないと思いますが、こうした文章が広がることで「中国=危険、野蛮」と言った印象を持つ可能性があります。

この手の「あの犯罪は○○人に違いない」と言った推測やデマはネット上に多く、こうしたものを鵜呑みにすると「○○人は犯罪者集団」と誤った認識を持つことになります。

一見すると大したことないように思えるデマも、実は偏見を助長し、デリケートな問題を考える上で大きな阻害要因となる。そして信じてしまっている自分はいつの間にか、偏見で満ちた人になってしまうのです。

こうした情報に踊らされないために「広がっているネタはまず疑う」と言った慎重姿勢で挑むことが大事です。

 琉球新報が毎週日曜日に発行している小中学生新聞「りゅうPON!」12月31日付けでも同じテーマを子ども向けに書いています。

 親子でりゅうPON!と琉球新報style、2つ合わせて、ネット・スマホとの付き合い方を考えるきっかけになればうれしいです。

【プロフィル】

 モバイルプリンス / 島袋コウ 沖縄を中心に、ライター・講師・ラジオパーソナリティーとして活動中。特定メーカーにとらわれることなく、スマートフォンやデジタルガジェットを愛用する。親しみやすいキャラクターと分かりやすい説明で、幅広い世代へと情報を伝える。

http://smartphoneokoku.net/