「『洗骨』は世界トップクラスの風習」 親子演じた奥田瑛二・筒井道隆・水崎綾女が語る


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那覇・泊港から約2時間フェリーに乗ると、到着する粟国島。その美しい島に残る葬儀の風習「洗骨」をテーマにした、沖縄発の映画が完成した。ガレッジセールのゴリさんが本名の照屋年之で監督と脚本を手掛けた本作は、優しく心にしみる家族の物語。撮影のため沖縄県内に滞在した、主演の奥田瑛二さん・筒井道隆さん・水崎綾女さんに、見どころやエピソードなどをたっぷり聞いてきました。

聞き手:饒波貴子(フリーライター)

映画「洗骨」で、粟国島に住む新城家の親子を演じる3人。左から長男・剛役の筒井道隆(つつい・みちたか)さん、父・信綱役の奥田瑛二(おくだ・えいじ)さん、長女・優子役の水崎綾女(みさき・あやめ)さん。

撮影秘話、滞在中の過ごし方は?

ー粟国島と那覇で開催した試写会の大成功、おめでとうございます! 撮影中の思い出などを教えてください。

奥田:試写会は幅広い層のお客さまに来場していただいてうれしかったですし、緊張もしました。特に粟国島では「洗骨」を実際に体験している方たちもいらっしゃいましたからね。

筒井:撮影場所は、粟国島と本島のオールロケでした。粟国島は自然にあふれ、のどかな島でした。

水崎:沖縄県民の方でも、粟国島に行ったことがない方が多いみたいですね。ぜひ行ってみてください!
 
奥田:僕は演じた信綱のまま、時間を過ごしていました。海と空をじ〜っと眺めて、何も考えない。散歩の時は植物に触れたり野良猫をなで回したり、本当に島の人でいられたなぁ。夕方撮影が終わると、泡盛飲んで楽しく笑っていました(笑)。話のほぼ順番通りに撮影を進めて行ったので、作り込んだ感じはなく自然な感情で演じていました。舞台となる地に身を置くことで集中力が磨かれ、監督の指示にうなずく。沖縄で過ごさせてもらった時間は、役者として理想的な環境でした。信綱95%、奥田瑛二5%くらいの割合でいましたが、酒を飲むと奥田瑛二がちょっと出てきていたかも(笑)。

水崎:飲んでる時は、オトーから奥田瑛二に変わっていましたね(笑)。私は妊婦の優子を演じましたが、撮影中の約1ヵ月はずっとシリコン製のお腹をつけたまま過ごしました。食堂に行ったり、ライカムにショッピングに行ったりする時も、お風呂以外はずっとつけて生活していたんです。優子は作品テーマにつながる重要な役なので、「妊娠のフォルムや手触りに近いシリコン製のお腹を作ってください」ってお願いしたんです。寝返りが打てなかったり重かったり、大変な経験でしたが優子の気持ちになれました。本当の妊婦さんと思って話し掛けてくる方には、申し訳なかったですね。粟国島の人たちにも「出産が近いんだから、もっと食べて栄養とらないと」と励ましてくださいました(笑)。そんな感じで役作りには、集中して入り込むことができましたし、奥田さんや筒井さんが空気感を作ってくださるので、そこに身を預ければいいって思っていました。

筒井:僕も撮影期間中は、景色を見てぼ〜っとしていました。散歩して、よく海にも行きましたよ。自然と一体になれるというか、無心でいられるというか。そういうことを欲していたので、ぜいたくな時間が過ごせたと思っています。都会だと人がいっぱいいて情報や物があふれていますが、僕はあまり人工物には興味がなく自然が一番美しいと思っているんです。自然の力から得られたものがあったし、こんな風に過ごして大丈夫かなと感じるくらい、リラックスしていたんですよ(笑)。でも沖縄が舞台で、沖縄の人間を演じるわけだから、そのリラックス感は絶対大事なこと。役のベースとなる感覚を学ぶことができたと思っています。

演じた役・込めた思いについて

ー映画の中で演じた人物像、演じながら考えたことなど教えてください。

水崎:演じた優子は人から勘違いされるタイプ。センシティブで空気を読む女性ですが、意見をはっきり言うのでニーニーの剛から見るとワガママな妹かも。自分にどこか似ているところがありました。

奥田:父親が本当にかわいがっていた娘だから、お父さんっ子だろうね。見ているうちに彼女の健気な可愛らしさが分かると思うし、それを上手に演じていると感心していました。奥田瑛二と水崎綾女ではなく、信綱と優子という父と娘の関係をブレずに演技で進められたと思います。逆に息子の剛には行き違いなどで、正面から向き合えないんです。父親と息子と娘という重要な親子関係を、それぞれ上手く進行できたと思っていますよ。

筒井:実際に僕にも妹がいます。イメージもなんとなく似ていて、「僕なら妹にこんな風に言うだろうな」という感じがすごく近かったので、自然に演じられました。演じた剛は沖縄から本土へ出ていく男で、その感覚がわからなかったのでそこは少し難しく感じたかな。クラインクイン前にその心境や設定について考えて、解決しました。

水崎: ニーニーはお父さんのことを情けないって思っていますが、優子は情けなさはあまり感じず、「すご〜く優しくて温かい」と思っているはず。本当に島にいるオトーという感じがします。優子にとってオトーは、どんな私でも受け入れてくれる絶対的な信頼感があるんですよ。ニーニーは本音をぶつけながら、安心してけんかができる相手。怒られるって分かっているけど、兄妹だからこそけんかする(笑)。その気持ち、すごく理解できました。

奥田:映画では妻の「洗骨」の儀式で家族が集まる訳だけど、それぞれの存在を認めて見つめ合い、自分も見つめ直す。そこが「洗骨」の強いパワーというか、すごさを感じるね。

水崎:自分自身の家族についても意識しました。一人でこの世に生まれたんじゃないと感じ、優子を演じたことで、新しい水崎綾女が誕生した感覚にさえなったんです。

筒井:今、自分がどういう風に生きるのかということを一番大事にしているので、祖先に感謝しつつ次世代の子ども達のために大人は何ができるのか、ということを日々考えています。「洗骨」という風習は全く知らなかったので、沖縄ではこういう儀式があったのかとすごく勉強になりました。

水崎:洗骨のシーンは神秘的で素敵ですよ。「私も遺骨を大切に洗ってもらえるような生き方をしなきゃ・・・」と、東京に帰ってそう思うようになりました。映画の中のオカーはみんなに愛されていて、洗骨の作業がその愛しさを現しています。周りの人に感謝を語り継がれるような、生き方をしたいです。

奥田:混沌としている現代社会で錯綜(さくそう)していると、汚れた魂を持ってしまうことにもなるね。それはダメだと反省しながら年齢を重ね、家庭を持って子や孫が生まれると、新たな気持ちで家族というものを考える。夫婦や子どもとの関係は個人の問題だと思えるけれども、孫ができると意識が変わるんだよね。僕自身孫が誕生してこの歳になって、家族とはとても大切なものだとやっと実感できました(笑)。ある意味死に向かう覚悟もでき、魂の昇華も考えるようになりました。その儀式として「洗骨」は、世界でトップクラスの素晴らしい風習だろうと思えたんです。私は演じて擬似体験しましたから、みなさんは映画館で体験してください。

沖縄の印象について

―身近な沖縄の人といえば、ガレッジセールのゴリさんこと「照屋年之監督」だったと思います。どんな印象を持っていますか?

水崎:素晴らしい映画監督。無駄なカットを一切撮らないんです。バラエティー番組でご一緒させていただいてきたゴリさんではなく、衣装合わせの時から「照屋監督」でした。とても安心感があり、私がゴリさんを知らなければ、お笑い芸人さんって気付かないでしょうね。

奥田:素晴しい監督が日本の映画界に一人増えた、と思っています。映画監督の照屋年之を知らない人はまだ多いでしょうが、それでいい。芸人ガレッジセールのゴリは、照屋監督とは別に存在しています。

筒井:厳しくはないですが、こだわりがはっきりしている監督。脚本からずれることなく撮影するので、なるほどと納得でした。芸人の後輩、鈴木Q太郎さんも出演していて、彼を指導する時はコントを見ているようで面白かったです(笑)。

水崎:Q太郎さんには最初厳しかった(笑)。本格的な映画の現場は初めてと言っていたQ太郎さんはコントの延長線みたいな感覚があったらしく、「瞬きしない!」と注意されNGを出されていましたね。途中から奥田さんや筒井さんの演技を見て学んだようです。ゴリさんもQ太郎さんも人柄が素晴らしくて、撮影中はとても助けられたんですよ。

奥田:監督というのは現場で2日くらい俳優さんを観察し、OKと思ったら注文はしない。俳優さんがきちんと演じるのは当たり前で、監督の想像を超えてくれたら最高だよね。我々3人に関して照屋監督は、役が溶け込んでいると思ってくれて、余計なことは一切言ってきませんでした。だから自分たちも表現者として、監督のイメージよりもっと良い作品を作りたいという願望が生まれてきます。いいシーンが撮れたら、役者よりも泣いて喜ぶのが監督じゃないかなと思っています。

―好きな沖縄料理はありますか!?

奥田:テビチや沖縄風おでんが大好きで、仕事が終わって一人で歩いて入った店が、偶然有名なおでん屋さんでした。カウンターでおしゃべりしながら食べて泡盛を飲み、最高の気分でしたよ。人に聞いてから行くのは嫌で、自分でお店を見つけるのが好きなんです。沖縄の料理は嫌いなものないね! 家でゴーヤーを栽培して、カミさんがゴーヤーチャンプルーを作っていますしね。

水崎:私もよくゴーヤーチャンプルー作ります。フーチャンプルーも好きで、今回も車麩を買いました。中味汁、ヒージャー汁、コーレーグースが大好きです。

奥田:ミミガーも大好きだな。思い出すと泡盛が飲みたくなってくる(笑)。あ、国際通りの近くでヤギの睾丸を食った経験もある(笑)。

筒井:僕はサーターアンダギーやジューシーおにぎり、さんぴん茶など気軽にどこでも買えるものが特に好きです。沖縄に来て普通のコンビニ弁当を食べても味気ないので、沖縄ならではの食べ物や飲み物を味わいました。東京では専門店に行かないと、なかなか買えませんからね。

奥田:牧志公設市場の2階がいいね。前に沖縄ロケの映画に出演して、時間ができると毎日のように行っていました。昼間から泡盛飲んで食べたいものを頼み、近くに座ったおじさん、おばちゃんとおしゃべりして楽しかったな〜。リラックスできました。市場は市民の宝だね。

水崎:奥田さんは飲む話ばかり(笑)! 役者は気取った店より、意外と庶民的な食堂や屋台が好きですよ。「この店古くてちょっと汚いんですけど、とってもおいしいんです!」って言ってくれるとワクワクします。

奥田:高級店よりそういう店の方がうれしいですね。観光客向けではなく、地元の味を教えてもらいたいです。

―最後に映画「洗骨」をアピールしてください!

奥田:笑って泣いてまた笑って泣き、やがてほほ笑む映画。その3つを実感でき、「洗骨」という強烈なタイトルに臆することはありません。映画の醍醐味(だいごみ)が詰まっています。

筒井:題名が固く重いテーマと思われがちな映画ですが、コメディー要素が強い映画です。楽しみながら命に関わる話もちゃんと感じられます。命の尊さをコメディーとシリアスな部分を通じて、感じてもらえるはずですよ。ゴリさんの優しい雰囲気がすごく詰まっているので、その点も味わっていただけたらと思います。

水崎:沖縄の良さがぎゅっと詰まった映画で、見終わった後に誰かに感想を話したくなるような、家族に会いたくなる映画です。奥田瑛二さんの情けない姿が唯一観られる作品、というのもアピールしたいです。

「ハイサイ気分」
ようこそ沖縄へ! 本土から来沖する有名人を歓迎する、連載インタビュー。近況や楽しいエピソード、沖縄への思いなどを語っていただきます。

【プロフィール】

奥田瑛二/新城信綱 役
1950年3月18日生まれ、愛知県出身。
1979年『もっとしなやかに もっとしたたかに』(藤田敏八監督)で映画初主演。ドラマ出演を機に人気を博し、続く『海と毒薬』(86/熊井啓監督)で毎日映画コンクール 男優主演賞受賞、1989年同監督作品『千利休・本覚坊遺文』で日本アカデミー主演男優賞、1994年『棒の哀しみ』(神代辰巳監督)ではキネマ旬報、ブルーリボン賞など9つの主演男優賞を受賞した。その後も数多くの映画、ドラマに出演。近年の作品として、映画『64-ロクヨン-』、『散り椿』『ニワトリ★スター』(18/かなた狼監督)など。2001年、映画『少女~an adolescent』で監督デビュー。3作品目の2006年『長い散歩』では第30回モントリオール世界映画祭グランプリ・国際批評家連盟賞・エキュメニック賞の三冠を受賞するなど監督としても高い評価を得ている。

筒井道隆/新城剛 役
1971年3月31日生まれ、東京都出身。
映画主演デビュー作『バタアシ金魚』(90/松岡錠司監督)で、第14回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。ドラマ「あすなろ白書」(93/CX)、「君といた夏」(94/CX))などでも脚光を浴び、現在も数多くの映画、ドラマ、舞台で活躍している。近年の作品として、映画『64-ロクヨン-』(16/瀬々敬久監督)、『ママレード・ボーイ』(18/廣木隆一監督)、ドラマ「そろばん侍風の市兵衛」(18/NHK)、「ハゲタカ」(18/EX)など。

水崎綾女/新城優子 役
1989年4月26日生まれ、兵庫県出身。
2004年に第29回ホリプロタレントスカウトキャラバンでヤングサンデー賞を受賞しデビュー。ドラマ「吉祥天女」(06/EX)で女優デビュー、その後、多くの映画・ドラマ・舞台で活躍し、2017年『光』(河瀨直美監督)ではヒロイン役に抜擢され、第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に参加する。近年の作品としては『進撃の巨人』(15/樋口真嗣監督)、『HK/変態仮面 アブノーマル・クライシス』(16/福田雄一監督)、『キモチラボの解放』(18/A.T監督)など。


 

©️『洗骨』製作委員会

<インフォメーション>
2018年/日本
監 督・脚本:照屋年之
出 演:奥田瑛二、筒井道隆、水崎綾女、大島蓉子、坂本あきら、山城智二、鈴木Q太郎  他
主題歌:「童神」(歌:古謝美佐子)
配給:ファントム・フィルム
公式サイト http://senkotsu-movie.com/
◆1月18日(金)から、沖縄先行公開(シネマQ、シネマライカム、ミハマ7プレックス、サザンプレックス)
◆2月9日(土)から、丸の内TOEIほか全国公開

饒波貴子(のは・たかこ)
那覇市出身・在住のフリーライター。学校卒業後OL生活を続けていたが2005年、子どものころから親しんでいた中華芸能関連の記事執筆の依頼を機に、ライターに転身。週刊レキオ編集室勤務などを経て、現在はエンタメ専門ライターを目指し修行中。ライブで見るお笑い・演劇・音楽の楽しさを、多くの人に紹介したい。