沖縄のミステリーストーン!? 謎多き「梵字碑(ぼんじひ)」に迫る【島ネタCHOSA班】


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那覇市宇栄原のクシヌカーと呼ばれる井戸の後ろの方に、不思議な文字が彫られた石碑があります。何やらぐにゃっとした文字で、まったく読めないのですが、どういう意味があるのか気になります。詳しく調べてもらえませんか?

(那覇市 Y・Sさん)

はて、不思議な文字が彫られた石碑とは。何はともあれ、まずは現物を見に行ってみました。

那覇市宇栄原のクシヌカーにある梵字碑群(写真①)。そのうちの1基には、密教の仏さま・大日如来を表す「バン」という梵字が彫られています(写真②)

その名は「梵字碑」(ぼんじひ)

依頼のお便りにあったクシヌカーとは、那覇市宇栄原にある聖なる井戸。その裏に、神秘的な一群の石碑を発見! そばに寄ってみると、石の表面に、不思議な文字が彫られていました(写真①・②参照)。

しかし、この文字……。見ていると引き込まれそうなミステリアスな雰囲気がありますが、ひらがなとも漢字とも違っており、まったく読めません! いったい何を意味しているのでしょうか。

沖縄の民俗に詳しい調査員仲間に聞いてみたところ、それは「梵字碑」と呼ばれるものではないか、との情報が。ここでハッと記憶がつながった調査員。そういえば、ちょっと前の琉球新報本紙に、県内の梵字碑を訪ね歩いて本にまとめた方がいらっしゃるという記事が出ていたような……。

急いで過去の紙面をめくると、ありました! 昨年11月15日付の27面に、元教員の古堅宗久さんという方が梵字碑の写真集を出版した、との記事が出ています。これは、古堅さんに直接お話を聞いてみるしかありませんね!

古代インドの文字に由来

写真③ 読谷村渡具知海岸近くの高台に立つ梵字碑(崖くずれのため近くの小屋に移転)。「ア・ビ・ラ・ウン・ケン」という真言(密教の呪文)が彫られています  写真③は古堅宗久さん提供

というわけで、うるま市に住む古堅さんを訪ねた調査員。古堅さんは、たくさんのお菓子やみかんで調査員をもてなしてくれた後、碑に書かれているのは、「梵字」と呼ばれる古代インドのサンスクリット語を起源とする文字だと教えてくれました。

古代インド! どうりでまったく読めないはずです。もともとは2000年以上前のインドで使われていた文字をベースに変化・発達した文字ですが、仏教と共に中国へ伝来し、さらに奈良時代ごろの日本に伝わり、密教寺院などで用いられるようになったといいます。とりわけ空海を開祖とする真言宗では、梵字を仏さまそのものを表す神聖な文字と考えており、魔よけの力やご利益のあるありがたい文字とされているのだとか。例えば写真②の碑の文字は「バン」と読み、真言宗における最高位の仏さま・大日如来を表現。また何文字かがつながって、真言と呼ばれる呪文を表す場合もあるようです(写真③参照)。沖縄では、17世紀ごろ梵字を石に刻み、立てるようになったと推測されるそう。

もともとは高校の物理の教員だったという古堅さん。カメラや県内の旧跡めぐりが趣味だという古堅さんが梵字碑と出合ったのは、約1年前。粟国島のあるお屋敷にあった碑を見て興味を持ち、はじめはそれが何かまるで分からなかったものの、図書館などで調べていくうちに、梵字や梵字の表す意味について知った、と話します。

「それから、県内に約40基あるという梵字碑を一つ一つ訪ね歩きました。宅地造成、開発などで行方不明のものもあり、確認できた33基を写真集にまとめ、昨年10月に自費出版で出しました」

古堅さんは、御年82歳。碑の取材・撮影や本文の執筆はもちろん、ワープロを駆使したレイアウトまで自力でこなしたといいますから、そのバイタリティーに驚かされます。

「この年になって梵字碑を知ったことは大きな喜び。神仏を信じ、心豊かに生きようとする思いが込められていることを知り、大変なうれしさがある」と古堅さんは目を輝かせながら話してくれました。

※「ふるさと沖縄のふしぎな形の文字 梵字碑」(古堅宗久・著)は現在品切れで、再版の予定はありませんが、琉球大学附属図書館、沖縄県立博物館・美術館の情報センターに寄贈本が所蔵されています。近日中に沖縄県立図書館にも寄贈予定とのこと。
 

(2019年1月31日 週刊レキオ掲載)