入社の決め手は「成長できる企業」
就職情報会社「リクルートキャリア」が、2019年春に就職予定の大学生に入社先を確定する決め手について調査を実施し、その結果が発表されました。
調査結果によると、「自分の成長が期待できる」との答えが47.1%で最多で、「年収が高い」「知名度がある」などは2割に満たなかったということです(複数回答)。
※出典:株式会社リクルートキャリア
https://www.recruitcareer.co.jp/news/pressrelease/2019/190131-01/

終身雇用の終焉、人生100年時代、大企業の倒産・・・など働く環境に大きな変化が起きていることを鑑みると、「知名度の高い企業に入社しても安定が確約されたわけではない。だったら自分自身に力がつき、成長できる環境を選びたい!」と思うのは当然なのかもしれません。
成長実感というのは個人差もあるかと思いますが、仕事を通して「成長」を感じる時とは、例えば
- 新たな知識を身につけて実践する
- できなかったことが自然とできるようになる
- チャレンジできる
- 周囲のサポートがあって目標を達成することができる
- 他者に認められる
など、何かしら自分に変化や変容が起こる時に感じるものではないかと思います。
では、社員が成長できる企業とは、どのような組織でしょうか。
成長実感の環境づくりには、さまざまな観点があるかと思いますが、今日はその中でも社員が育つ仕組み=人材育成について、書き進めてみたいと思います。

◇執筆者プロフィル
波上こずみ(なみのうえ・こずみ) コズミックコンサルティング代表
子育て・介護と仕事との両立に苦しんだ経験を踏まえ、2016年に起業。「働く人のモチベーションを組織の活力へ!」をテーマに、沖縄の企業や個人を対象としたコンサルティングを手掛けている。1976年、那覇市首里生まれ。1男1女の2児の育児中。
☆3月7日(木)午後6時~7時、沖縄県立図書館で無料イベント開催!
トークセッション「専門家に聞く!『企業の本音、働く人の気持ち』」
本当に育成できている?
「あなたの企業は社員が成長できるように環境づくりをしていますか」
私はコンサルティングの際、経営者やご担当者に対してこのような質問をさせていただくことがあります。
先日もある中小企業の経営者に、同様の質問を投げかけました。すると、次のような回答が返ってきました。
「人材育成はちゃんとやってるんです。でも人が育たず、辞めてしまう。どうしてでしょうか」
実際にどういう人材育成をしているか具体的にヒアリングを進めていくと
- 育成はOJT(On-The-Job Training)がほとんど
- 外部研修に年1回程度社員を派遣している
- 著名な先生を呼んで、全社員向けに講話をしてもらった
という内容でした。
※ OJT(On-The-Job Training)とは:実際の職務現場において、業務を通して行う教育訓練のこと
そこで、「御社の社員には、どういう人材になってほしいと思っていますか」と質問を投げかけたら、
「特に考えたことはないです。常識があればいいんじゃないのかな」
「良さそうだなと思う研修があれば、その都度参加させる。それが育成じゃないんですか」とのこと。
果たしてこれは人材育成をしていると言えるのでしょうか。
離職率が高い企業の誤解「育成できていると思っている」
前述の企業の場合、取り組みは進めているので、決して育成をしていないというわけではありません。
しかし、自社の求める人材像が曖昧なまま、打ち上げ花火のようにポンポンと単発に研修を実施することは、充分な育成をしているとは言い難いです。
単発の研修を受けて「なるほど勉強になった」と思っても、研修会場の一歩外に出ると現実の世界が待っています。業務に戻ると「研修で勉強になったと感じたけど、何だったっけ?」となり、学んだことが現場でアウトプットできず、財産として組織には残らない・・・こういうケース、あなたの企業にも当てはまりませんか。
ただ単に思いつくまま研修を実施することでは育成の効果は出ません。
では、「どのように自社オリジナルの育成プログラムを組み立てればよいか」についてご説明します。

育成プログラムを組み立てるステップ
STEP1 経営理念、ミッション、ビジョンの再確認
理念とは、企業活動の基礎となる根本的な考え方や価値観です。理念はそれぞれの企業の「心」であり、百社百様です。企業で働く社員は、企業理念を核として持ちながら、企業活動を通して理念を実現する大事な人材になります。
ですから、「人材育成プログラム」を構築するにあたり、何よりも最初にやることは、自社理念の再確認です。
- 理念が何を意味しているのか
- 業務を通して理念を実現するというのはどういうことか
こうしたことが、組み立てる側としてどれだけ理解しているかがポイントです。
STEP2 理念の実現に向けた人材像の定義
理念の再確認をしたら、次はその理念を実現するための人材について、自社内で定義しましょう。
誰でもいいはずはありません。
- 具体的にどのような意識や心構えを持っている人なのか
- 業務に対しての姿勢は?
- 仲間に対する思いは?
- お客様や周囲の人々に対しての関わり方は?
- 組織に対する意識は?
- そして何より、自分自身に対してどのように向き合っている人なのか?
さまざまな切り口から自社のこだわりを追求してみると、逆に「こういう人材を求めたい!!」という譲れない部分がフォーカスされます。これが「自社の求める人材像」です。
例えば、私が育成プログラムのお手伝いをしている法人では、求める人材を下記のように定義付けしています。
事例)
《社会福祉法人 海邦福祉会》の求める人材像
- 気づける
- 気配りができる
- やる気がある
- チャレンジできる
- 変化に対応できる
- 成長し続ける
STEP3 自社の風土に合わせた育成プログラムの設計
「では具体的にどのような育成を行うか」
ここで初めて、このアクションが発生します。
求める人材像に必要な要素は何か、その要素を身につけるための育成や研修とは何かを洗い出します。階層ごとに設定すると分かりやすいかもしれません。
例えば、必要な要素として「チームで成果をあげることを意識している人材」であれば、チームビルディング研修を仕掛けたり、社内の既存イベントを横断的なメンバーで実行させたり、というような組み立てです。
STEP4 学びをアウトプットする仕組みづくり
多くの企業では、研修を実施したことで満足してしまい、研修後に育成のアクションが止まってしまっています。育成の目的は社員の成長を促すことであるはずなのに、成長を実感できる機会を与えていないケースが多々あるのです。
研修で何を学んだのか、その学びを具体的にどのように実践するか、研修直後に上司もしくは同僚などと確認し、現場でアウトプットする仕組みが必要なのです。
そして、一定期間を経て、実際にアウトプットの成果や実感を共有してもらい、次のアクションにつなげましょう。
つまり「研修での学びや気づき→現場での実践→フィードバック→現場での実践」を繰り返しながら成長実感を促すという仕組みです。
この一連の流れが、大きく飛躍するための後押しになります。
まとめ
今回は、社員の成長を促すための「自社オリジナル育成プログラム」の組み立て方について、ご紹介いたしました。
働く側として、個人個人で学びを実践する意識はもちろん必要です。
同時に組織としても、社員一人一人の学びや気づきを業務で実践し、成長を実感できる仕組みを作ることが重要です。
「社員が成長できる環境」とは、さまざまな定義があるかと思いますが、社員が育つ仕組みづくりにどれだけ企業が戦略的にかつ真剣に取り組んでいるかということが、人材の定着に大きく影響します。
人材育成プログラムはいわば、「あなたの成長を応援します!」という組織から社員への期待を込めたメッセージです。
思いを込めたメッセージを、働く人に伝えてみませんか。

執筆者プロフィル 波上こずみ(なみのうえ・こずみ)コズミックコンサルティング代表
1976年 那覇市首里生まれ。沖縄県立首里高校、東京経済大学卒業後、2001年JTBワールド(東京)に入社。04年に帰沖し沖縄観光コンベンションビューローに入職。05年に結婚、08年に長男、11年に長女を出産。復職後、同ビューロー初の組織内人事担当者として、人材育成プログラムを構築、講師を務めた。父親の介護問題にも直面し16年に退職。自身の経験を生かし同年4月、組織コンサルタントとして起業した。
波上こずみ公式HP http://kozumi-naminoue.com/