中立的な立場に見える「トーンポリシング」に騙されない!モバプリの知っ得![96]


この記事を書いた人 稲嶺 盛裕

「トーンポリシング」

この言葉を聞いたことはありますか?

直訳すると、トーン(話し方)+ポリシング(取り締まり)で、「話し方や言葉遣い、態度や感情を批判する」という意味になります。

横文字で少しカッコよく感じるかもしれませんが、議論の際に論点をずらす行為としてトーンポリシングは行われるため、良い意味では使われません。

例えば、痴漢被害にあった女性が「痴漢するオヤジ、ぶん殴りたい!」と怒っている場合に、「痴漢にあったことは可哀想だと思うけど、そんな汚い言葉を使うのはよくないよ」と「言葉」を取り上げて評することがトーンポリシングです。

日本ではあまり定着していませんが、これからの社会を考える上でとても重要な言葉のため、しっかりと把握しておく必要があります。

「保育園落ちた日本死ね!!!」とトーンポリシング

2016年2月、はてな匿名ダイヤリーへの投稿「保育園落ちた日本死ね!!!」という文章が話題になりました。

この投稿では、子供を保育園に預けることができず、働くことができない母親のストレートな感情が吐露されていました。

“何なんだよ日本。
一億総活躍社会じゃねーのかよ。
昨日見事に保育園落ちたわ。
どうすんだよ私活躍出来ねーじゃねーか。
子供を産んで子育てして社会に出て働いて税金納めてやるって言ってるのに日本は何が不満なんだ?
何が少子化だよクソ。
子供産んだはいいけど希望通りに保育園に預けるのほぼ無理だからwって言ってて子供産むやつなんかいねーよ。
不倫してもいいし賄賂受け取るのもどうでもいいから保育園増やせよ。
オリンピックで何百億円無駄に使ってんだよ。
エンブレムとかどうでもいいから保育園作れよ。
有名なデザイナーに払う金あるなら保育園作れよ。
どうすんだよ会社やめなくちゃならねーだろ。
ふざけんな日本。
保育園増やせないなら児童手当20万にしろよ。
保育園も増やせないし児童手当も数千円しか払えないけど少子化なんとかしたいんだよねーってそんなムシのいい話あるかよボケ。
国が子供産ませないでどうすんだよ。
金があれば子供産むってやつがゴマンといるんだから取り敢えず金出すか子供にかかる費用全てを無償にしろよ。
不倫したり賄賂受け取ったりウチワ作ってるやつ見繕って国会議員を半分位クビにすりゃ財源作れるだろ。
まじいい加減にしろ日本。”

「保育園落ちた日本死ね!!!」
https://anond.hatelabo.jp/20160215171759

この投稿は後に国会でも取り上げられ議論となり、また「『現代用語の基礎知識』選・2016ユーキャン新語・流行語大賞」でもトップ10入りを果たすなど社会に大きな影響を与えました。

同じく待機児童状態の家族や過去に同じ状況だった人たち、あるいは子育てしにくい環境に賛同する人たちから共感する意見が集まる一方、「辛いのは分かるけど、『死ね』という言葉を使うのはよくない」「言葉が汚いから理解を得られないよ」と言った反論意見も多く集まりました。

ここでの反論として出てきた「死ねは良くない」「言葉が汚い」という指摘は、トーンポリシングのよい例でしょう。

「待機児童問題」に関しては意見がほぼ割れなかったものの、言葉遣いをめぐって「それだけ辛かったんだよ」と許容する人と、「言葉が汚いからNG」とした人に分かれていったのです。

「保育園落ちた日本死ね!!!」は待機児童問題に関して一石を投じただけでなく、図らずも日本にあまり定着していないトーンポリシングを可視化させることにもなったのでした。

イラスト・小谷茶(こたにてぃー)

一見知的で冷静で中立的な「トーンポリシング」に騙されない

トーンポリシング最大の問題は「社会的に弱い立場の人、少数派の主張をないがしろにすること」にあります。

2017年6月、バリアフリー研究所代表の木島英登氏が格安航空会社バニラエアに車いすであることを理由に搭乗拒否されたことが騒動となりました。
その際も、「バリアフリーが進めばいいと思うけど、このやり方はよくない」というトーンポリシングを含んだ反論が出てきました。

また2018年7月には自民党の杉田水脈衆議院議員が月刊誌「新潮45」に書いた「LGBTは『生産性』がない」とした記事への抗議のため、5,000人が集まるデモ集会が行われました。その際にも「主張は分かるがすぐに抗議するとLGBTの理解が得られない」などのトーンポリシングを含んだ意見が出てきました。

障がいのある人、セクシャルマイノリティーの人たちは制限されている権利や差別的な態度について冷静に主張しても、マジョリティー(多数派)には中々聞いてもらえない。

それが広く伝わるよう、声を大きくし、デモパレード、あるいは抗議活動を行う。しかしそうすると「冷静になれよ」としたトーンポリシングが飛んでくる。当事者からすると、「冷静になって話しても、聞いてくれるの?」とまた怒りが湧く。このようなサイクルになります。

トーンポリシングを行う人たちは「主張は分かるけど」と前置きし、一見良き理解者で冷静なアドバイザー的な立場のごとく振る舞います。それらは物事を俯瞰で見ている、中立で賢いイメージを抱くかもしれません。しかし、「言葉が汚い」「冷静になった方がいい」と着地することで、マイノリティーの主張をずらし、無効化し、分断を加速させる原因となるのです。

ビジネス書や自己啓発本などを見ていると「人に伝わるよう、冷静にロジカル(論理的)に説明する」とした教えがよく書かれています。もちろんビジネスにおいては「感情」ではなく、「論理」や「筋」が大事なのでこうした教えは大事でしょう。

しかしながら個人の権利の主張や差別構造の是正に対して、ビジネス書の「ビジネスマナー」的な対応をするとトーンポリシングになるということです。

SNS時代になり、個人が様々な主張を行い、それに対する共感・反発も容易になりました。だからこそ、感情に流されて少数派の意見をないがしろにしてしまうトーンポリシングをしないよう、常に心がける必要があるでしょう。

 琉球新報が毎週日曜日に発行している小中学生新聞「りゅうPON!」6月9日付けでも同じテーマを子ども向けに書いています。

 親子でりゅうPON!と琉球新報style、2つ合わせて、ネット・スマホとの付き合い方を考えるきっかけになればうれしいです。

【プロフィル】

 モバイルプリンス / 島袋コウ 沖縄を中心に、ライター・講師・ラジオパーソナリティーとして活動中。特定メーカーにとらわれることなく、スマートフォンやデジタルガジェットを愛用する。親しみやすいキャラクターと分かりやすい説明で、幅広い世代へと情報を伝える。

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