「早く飲みたいちょっと我慢 車持つから酒飲まん 味自満じゃなきゃ俺不満 ここは憩いの味自満 Let’sGo!味自満チェーン」
一度聞いたら忘れられないインパクトのある歌詞とメロディー。ヒップホップのような韻を踏み、酒類を提供する居酒屋「味自満」を宣伝しつつ、飲酒運転ノーを呼び掛ける。
居酒屋味自満チェーン(沖縄市、伊禮門清吉代表)のコマーシャルは約17年にわたり放映が続く。伊禮門社長の名前にちなんで「清吉君」と呼ばれる、味自満の看板キャラクターのネコが登場する。家族連れや友人同士、模合、職場の仲間たちでにぎわう味自満の親しみやすさとともに、CMで飲酒運転撲滅を呼び掛けてきた。
無くならない飲酒運転
1978年に起業した伊禮門社長はこれまで数多くの事業を立ち上げてきた。沖縄市で始めたスポーツレジャーランドやディスコ、カラオケなどのほか、フランチャイズで居酒屋「豊年満作コザ店」をはじめ具志川店、浦添店を開店。たぬきが登場するCMも人気を集めた。
豊年満作は軌道に乗ったが、駐車場がないため、客足が伸び悩むことがあった。そこで92年、沖縄市胡屋に大型の駐車場を完備した自社直営の居酒屋「味自満」をオープンする。居酒屋ブームもあり店は繁盛した。北谷町や那覇新都心、与那原町でも新規開店し、最大で9店舗を経営した。回転ずしも同時に5店舗オープンした。
「沖縄は車社会。店に足を運びやすくするために駐車場は必要だ」との狙いは当たったが、全てが順調だったわけではない。「運転するなら酒を飲まない」「酒を飲んだら運転しない」「酒を飲むなら車はおいて」など、飲酒運転をさせないためにメニューに注意書きを掲載したが、こっそり飲酒運転で帰る客も。そうした客が摘発されるたび、酒類を提供した店として警察から指導を受けた。
「指導書はずっと保管している。飲酒運転をさせないためにどうしたらいいか、頭を悩ませた」
撲滅の思い、歌詞に
伊禮門社長と交流のあったCMプランナーの比嘉盛卓さん(広告代理店「ピース」代表)は「飲酒運転が厳罰化される前から伊禮門社長の意識は高かった。店の宣伝とともに、飲酒運転撲滅の思いを歌詞にしようと提案した」と振り返る。
「酒を出す店なのに、『酒飲まん』とまで言い切っていいのか」。当初、歌詞の内容に社内では否定的な意見もあった。だが「飲酒運転で失うものは多い。お客に飲酒運転を許す店にはしたくない、味自満で飲んで飲酒運転するくらいなら来店はおことわり」(伊禮門社長)との固い決意を受け、歌詞は変更せずにそのまま放映した。比嘉さんの依頼を受け、作曲はバンド活動をしていた島袋豊さん(42)と當眞正武さん(42)が担当した。
これまで児童養護施設の児童らへの招待食事会や、献血への協力活動など多くの社会福祉活動にも関わってきた伊禮門社長のモットーは「相手のことを考える」。店で楽しく飲んだ客が帰り道に悲惨な事故を起こさないために、CMを通じてこれからも広く飲酒運転撲滅を訴えていく。
(随時掲載)
(2019年9月1日 琉球新報掲載)