先人の技を受け継ぎ日々精進
今帰仁村謝名で、1975年から手作業の加工黒糖作りを続ける「合資会社 共栄社」。加工黒糖は、県産のサトウキビを原料とする粗糖・黒糖・糖蜜を、独自の配合でブレンドして生み出される。製造時期が冬場12月~4月ごろに限られる純黒糖に対し、1年中製造が可能だ。味わいを細かく調整したり、さまざまなアレンジを施したりできるのもメリットで、共栄社ではその強みを生かし、ショウガや塩、ナッツなどと組み合わせた約30種の商品を製造している。手作りを続けることで磨かれた熟練の技は、同社ならではの新商品「ブエナ・スエルテ」の開発にも生かされ、今年の優良県産品NEXT部門で最優秀賞の受賞につながった。
加工黒糖製造の手順
1975年の創業から、レンガ造りの釜を用い、直火で加工黒糖作りを続ける今帰仁村謝名の共栄社。黒糖の香りを帯びた蒸気が立ち込める加工場で、黒糖作りの現場を見せてもらった。
共栄社の加工黒糖作りは、早朝6時から始まる。
まずは原料となる粗糖・黒糖・糖蜜を独自の配合で溶解し、ろ過。300メッシュの網で不純物を取り除き、撹拌(かくはん)しながら炊き上げていく。
現在では蒸気釜が主流だが、共栄社ではレンガ造りの釜を使い、鍋を直火炊きする先代からのスタイルが特徴だ。
加工黒糖のもとになる液体を煮詰めていくと、結晶化の準備が整う。しかし、煮詰めすぎると結晶が粗く口どけが悪くなり、逆に煮詰め足りないと結晶ができない。火加減の見極めが、職人の腕の見せ所だ。加熱にはバーナーを使うため、自身の目と経験だけが頼りとなる。
準備が整ったら、台の上に液体を流し込み、コテで延ばしてカットしていく。加工黒糖は冷えると同時に固まっていく。刻一刻と状態が変化するため、ここでもタイミングの見極めが難しい。
アナログの強み
黒糖の香りと湯気が立ち込める加工場では、すべての工程が職人技だ。
「県産サトウキビ由来の原材料を使っていますが、産地や品種によっても出来栄えが変わります」と共栄社代表社員の與那勝治さん。各工程のベストなタイミングは季節によっても左右されるため、慣れるには少なくとも数年の時間が必要だという。四半世紀にわたり加工黒糖を作り続けるベテランの與那さんですら「今でも失敗することがありますよ」と苦笑いする。
失敗した時は、なぜうまくいかなかったのか検討し、原因を突き止める。與那さんも、かつてはベテランのアドバイスを仰ぎながら腕を磨いていったそうだ。
「すべて目で確認するしかないアナログの世界ですが、アナログだからこその強みがあります」と與那さんは力を込める。
技術を生かした新商品も
現在、共栄社はショウガやナッツ、塩などを組み合わせた約30種に及ぶ豊富な商品を製造している。かつては3、4種類のみを作っていたが、大型の加工工場による大量生産に対抗するため、珍しい商品作りを始めたという。
その中で、與那さんはこれまでにない、なめらかな口溶けの加工黒糖作りに挑戦した。「マグロのトロのように、口溶けのいいものはおいしい。黒糖のトロを作ろう」。與那さんは技術と経験を生かし、技術的に困難なソフトタイプの加工黒糖を作り上げた。さまざまに試行錯誤ができる手作りの加工場だからこそ、独自の口溶けを実現できたと胸を張る。
このソフト黒糖が、今年の優良県産品NEXT部門で最優秀賞に選ばれたチョコレート黒糖菓子「ブエナ・スエルテ」誕生につながっていく。
ブエナ・スエルテは、ソフト黒糖にカカオマスをコーティングした新商品。 今月10日から製造販売を本格的にスタートさせている。
「スペイン語で『幸運をあなたへ』という商品名の通り、食べた瞬間、口の中でホロッと崩れて、心がホッと幸せになる風味です」と営業本部長の浦良作さん。共栄社のソフト黒糖ならではのすっきりした味わいと口溶けが、カカオマスの風味とマッチし、高級感のある独自の風味が生まれた。「今帰仁発の、沖縄の定番菓子になってくれたらありがたい」と與那さんは期待を込める。
「加工黒糖は純黒糖と比べて偽物扱いされることもありますが、これも沖縄の伝統的な技術。みんなで切磋琢磨して、沖縄の黒糖はすべて上等、と広めていきたい」(與那さん)
デジタル社会の現在でも、アナログな職人技の世界を極めることが未来へつながる―。そんなことがうれしく思え、勇気づけられた。
(日平 勝也)
合資会社 共栄社
今帰仁村謝名227-1
TEL 0980-56-2812
(2022年12月22日付 週刊レキオ掲載)