母から受け継ぐ島の味 ピィパーズジューシー


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 「八重山の味」といえば? そう問われて「ピィパーズ」を挙げるヤイマピトゥ(八重山の人)も多いだろう。本島でもピパーチやピパーツの名で知名度があり、独特の風味だけでなく新陳代謝の向上や整腸作用でも注目の食材だ。

炊きあがったジューシーに刻んだピィパーズの葉を散らす中野敬子さん(左)とそれをまぜる山城民子さん。手前にあるのは生のピィパーズの実(左)と天日干ししたもの(右)=西原町津花波

 石垣市宮良地区出身の山城民子さん(65)=西原町=にとってもピィパーズは古里の味で、母の味でもある。昔から日常的に食卓に並び、建物の壁や塀にはっているのは見慣れた風景だった。稲刈りの時期には新米でピィパーズの若葉入りジューシーをつくったといい、「大きなにぎり飯にして畑作業の休憩に食べたのが思い出。何よりのごちそうだった」と懐かしむ。

 民子さんは女5人男3人、8人きょうだいの6番目。本島に暮らすきょうだいも多く、何かあれば手料理を持ち寄って民子さん宅に集うという。取材の日は、姉の中野敬子さん(77)=那覇市=と長嶺美也子さん(67)=南風原町=が加勢にやって来た。

 仲良し姉妹が「尊敬できる自慢の母」と口をそろえるのは、94歳で亡くなるまで親族の中心的存在だった母の嵩田久子さんだ。末っ子が生まれて間もなく夫が脳梗塞で倒れ、数年の介護の後、還暦前にこの世を去った。久子さんはパイン工場の工員をしたり豆腐を作って売ったりして家計を支え、娘たちは母を手伝ううちに料理を覚えたという。

 「娘の夫たちにアンサンブルの着物を縫ったり、孫にはかまを縫ったり。本当に何でもできる人だった」と民子さん。明るく厳しくたくましい、大正生まれの「あんまー」の姿が目に浮かぶ。

 民子さんの夫の直吉さん(71)は在沖宮良郷友会の元会長。2006年に結成された「ピィパーズを生かす会」では初代会長を務め、普及活動に励んだ。自作の粉末を小瓶に持ち歩き、コーヒーにもひと振り。葉はみそ汁やヒラヤーチーに、生の実はすり下ろしてわさび代わりにと、余すことなく味わっている。

 ピィパーズは夏の若葉が柔らかく料理にお薦めというが、山城さん夫妻宅のブロック塀につたう葉をちぎり、ジューシーをつくってもらった。豚肉とシイタケというシンプルな具で炊きあげ、食べる直前に刻んだピィパーズの葉をまぜれば完成だ。口に運ぶと、爽やかな風味が鼻に抜ける。香辛料や香草類があまり得意ではない記者も箸が止まらない。隣に並んだ八重山そばに直吉さんお手製ピィパーズの粉末をかければ、シナモンのような甘い香りを含んだ優しい辛みがだしを引き立てる。「一度食べると癖になる」という言葉にうなずいた。

 この日、民子さんはジューシーと八重山そばに加え、オオタニワタリやアダニヌフク(アダンの芯)の炒め物も用意していた。敬子さんが持参した自慢のサーターアンダギーはデザートに。さながら「八重山御膳」のごちそうだ。笑顔でピースサインをしている母久子さんの写真を見ながら、思い出話に花が咲く。笑い合う姉妹の顔には母の面影。朗らかで愛情あふれるもてなしに、おなかも心も満たされた。

(手前左から時計回りに)ピィパーズの葉が入ったジューシー、アダンの芯をこんにゃくやタマネギと炒めたもの、八重山そば、サーターアンダギー、オオタニワタリと豚肉の炒め物

文・大城周子
写真・中川大祐

食欲増進、風邪予防にも

ピィパーズは東南アジア原産のコショウ科のつる性植物。和名はヒハツモドキで英語ではロングペッパー(長胡椒)という。

辛み成分ピペリンに防虫、抗菌作用などがあり、冷え性や食欲増進、風邪の予防などに効能があるとされる。

熟す前の実を乾燥させ、いって粉にしたものを香辛料や調味料として用いる。
 

(2018年2月27日 琉球新報掲載)