米軍基地の跡地を活用した独自の街づくりで発展を遂げている北谷町の西海岸地域。国内外の観光客や県民が訪れ、潮風を感じながら街を歩く。
この地域でいま、コーヒー店が海岸線沿いに集まり、ひそかにコーヒーブームが起きているのを知っているだろうか。
梅雨が明け、海に繰り出す季節がやってきた。コーヒーを片手に海辺の散歩やドライブを楽しもう。好みのコーヒーを求め、北谷町の美浜や砂辺周辺をほろほろ(ぶらぶら)した。
サーファー御用達、朝6時オープン
ウオーキングやサーフィンを楽しむ人が多い北谷町の西海岸地域は朝が早い。午前6時から開店するのは「GOOD DAY COFFEE(グッドデイコーヒー)」 1 だ。
同町砂辺出身の店主・宮里達也さん(34)は、ワーキングホリデーで4年間オーストラリアに滞在し、現地の文化にひかれた。「オーストラリア人たちは朝が早く、カフェでコーヒーを飲んで仕事に行く。仕事の後は趣味や家族の時間を楽しんでいた」と話す。
同店ではオーストラリアのバイロンベイで焙煎(ばいせん)された豆を使っている。
宮里さんが現地のカフェを回って探し出した。こだわりのコーヒーを楽しんだ後は、どこへ行こう?。
愛され空間、居心地いいね
米軍人・軍属が多く居住する地域にある「COFFEE CASA(コーヒーカーサ)」 2 には、外国人や地元の人々が通う。
店主の橋本テルミさん(51)は北海道札幌市出身で、20代で沖縄に移住した。2008年に創業し、10年目を迎えた同店には朝から客足が絶えない。仕事の前後、1日2回来店する常連客もいるという。
橋本さんは「子連れのお母さん同士も多い。みんなが来やすく自由に使ってくれたらいい」と話す。北谷町出身でバリスタとして働く花城可愛さん(32)が焙煎(ばいせん)した「髭珈琲」を使用したスペシャリティーコーヒーもオススメ。
「看板ミセス」がお出迎え
おやつ時に立ち寄ったのは「ミセス・マーコの手作りパイの店アメリ感★アメリ館」 3 。マーコこと高宮城正子さん(66)が1988年から営む。
高宮城さんが長男を出産した直後に夫・政昌(まさよし)さんが突然、店舗と高宮城さんの似顔絵入りの看板を用意したという。高宮城さんは当時1歳の長男の子育てと両立しながら、店主となった。
13年前に政昌さんが亡くなった時も「落ち込む暇なく必死でやってきた」と振り返る高宮城さん。バターの香りに包まれている店内には、食事やパイを楽しむ常連客が集う。
「昔は若い女の子たちに人気だった。お客さんと一緒に年をとって『高齢者になったね』って話すの」
厳選チョコとのマリアージュ
県内初となる、カカオ豆からチョコレートを作る「BEAN TO BAR(ビーン・トゥ・バー)」スタイルのチョコ専門店「TIMELESS CHOCOLATE(タイムレス・チョコレート)」 4 。カウンターでは選び抜かれたカカオと国産黒糖を使った自慢のチョコレートが出迎えてくれた。
国外から取り寄せたカカオ豆を仕分けし、粉砕しペースト状にして加工するまでの工程を、店内にあるガラス張りのキッチンで行っている。
「カカオの種類によって加工する手法を変えている」と語るのは、同店の吉川啓一郎さん(33)。こだわりはカカオにとどまらない。
市販品の数倍は値が張るチョコレートに、「どれどれ」と挑戦的な気分で一粒口に運ぶ。「うまっ!」。心をわしづかみにされた。カカオ豆が変身する行程を聞くと、その値段にも自然とうなずける。
最高のサンセットと共に
デポアイランド内の遊歩道に面する「ZHYVAGO COFFEE WORKS OKINAWA(ジバゴ・コーヒーワークス・オキナワ)」 5 。
平日の夕方にもかかわらず、多くの常連客や観光客で店内は大にぎわいだ。テラス席に座ると、潮風とさざ波の音が響き、水平線に沈んでいく夕日がまぶしい。
注文した「キャラメルマッドシェイク」をゆっくりと飲み干す。最高のロケーションも手伝って、気分は高まるばかりだ。
カフェ支えるスゴ腕焙煎士
北谷町内の多くの店で、沖縄市のコーヒー専門店「豆ポレポレ」の店主・仲村良行さん(39)が焙煎した豆を使ったコーヒーを提供していることを知っているだろうか。
仲村さんは焙煎(ばいせん)技術を競う全国大会で日本一に輝き、世界大会にも出場するトップクラスの焙煎士だ。町内の「ジバゴ・コーヒーワークス・オキナワ」「チョコレートジーザスコーヒー」「AIEN(アイエン)コーヒー&ホステル」など8店舗で、こだわりのコーヒーを味わえる。
県内の多くの飲食店が仲村さんの焙煎の腕を聞きつけてくるという。お店の雰囲気や店主の希望を聞き、一緒に選んでいく作業から始まる。「それぞれの個性を大切にしている。生産者や焙煎する人、抽出する人などの作り手によって、個性が出てくる」と話し、「焙煎士は縁の下の力持ち」と表現した。
同町西海岸地域でコーヒー店が多いことついて「新しいことにチャレンジしに外から来る人が多い。散歩がてら気軽にカフェに立ち寄ったり、コーヒーを片手に海を眺めたり、日常に溶け込んでいる。その場でしかできない体験ができる」と魅力を語った。
「コーヒーは嗜好(しこう)品。お店によって個性があるからお客さんは選んで消費できる」。さまざまな個性のあるお店を巡り、自分好みのコーヒーを探してみてはいかが?
(2018年7月1日 琉球新報掲載)