昨年2月17日に開催された『県民投票音楽祭』。辺野古新基地建設に伴う埋め立ての賛否を問う県民投票への機運を高めようと開催されたイベント。24日の投開票の一週間前に、若者たちは那覇の街中で胸の内に秘める思いをマイクに乗せて歌った。あれから1年。今年は『2.24音楽祭』と名前を変え、再び開催することが決まった。そもそも県民投票とは何だったのか。日々の生活を営む中で生まれる音楽や会話を通し、今後の沖縄を考える場を作る3人の若者に話を聞いた。
◇聞き手 野添侑麻(琉球新報Style編集部)
あの日から1年
―自己紹介をお願いします。
ハ:「ハイナと申します。サラリーマンしながら、G-Shelterというライブハウスのスタッフをしています。今回の『2.24音楽祭』と去年開催した『県民投票音楽祭』の制作担当です。その延長線上で昨年のフジロックフェスティバルで『うちなーヴィレッジ』という沖縄に関することを知ってもらうワークショップブースを展開しました」
瀬:「瀬名波奎です。25歳です。去年は『辺野古県民投票の会』の一員として、県民投票音楽祭の運営を行いました」
吉:「吉野楓です。南城市出身の22歳です。アメリカの大学に通っています。また『In the Eyes of a Japanese Girl』という、沖縄出身の女の子から見た視点で政治や基地問題、経済や宗教などをテーマにしたブログを書いています」
―昨年2月17日に行われた県民投票音楽祭。辺野古新基地建設に伴う埋め立て賛否を問う県民投票に足を運んでもらうきっかけになろうと、県民投票の会主導で開催されました。あれから1年経ち、『2.24音楽祭』と名前を変えてまた開催するきっかけは何だったんでしょうか。
瀬:「昨年の県民投票で民意は示したのですが状況は変わらず、むしろ悪くなっています。じゃあ次自分たちにどういうアクションが出来るのかというのを考えて、投票からちょうど1年経った日に再び音楽祭を開催することにしました。前回との違いはトークライブを多めに入れています。『あれから1年経ったけど、何を考えてた?』というのを訪れた皆さんと一緒に考えを深めていけるイベントにしたいと思っています」
ハ:「企画は昨年9月から進んでいたんですが、僕がなかなか踏み切れなかったんです。というのも、今年は県民投票があるわけではないのにやる意義はあるのかとか、また外から叩かれるんじゃないかなと萎縮してしまったんです。でも沖縄の現状をシェアしながら楽しい時間を過ごすのに規制はいらないと思い、今年も制作として関わることに決めました」
ハ:「今後も日々の生活を心から楽しむためには、県民投票で取り上げた問題が解消されないことにはどこか心にモヤモヤが引っかかったままじゃないか。去年の『2.24』というのは、沖縄の問題が集約された日だったからこそ、それぞれあの日に思ったことを忘れないようにリマインドし続けたいと思っています。そのためにはまた皆が集まれる音楽祭が必要だと思ったんです」
音楽は政治を超える
―前回の県民投票音楽祭の振り返りを聞かせてください。
ハ:「単純にライブを目的に見に来てくれた人たちも沢山いました。そんな彼らがストレスなく最後まで楽しんで遊んでいたのは、めちゃくちゃ開催した意味があったなと感じています。正直『投票行こう!選挙行こう!』というような社会的アピールって、何時間も聞いていられないじゃないですか。でも、何も知らずに来た人達も一緒になって楽しみながら考える場として機能することが出来たのは、やっぱり音楽って凄いなと痛感しました。賛成派・反対派どちらにしても皆葛藤を持っているのが共通項としてあったので、自分事として積極的に参加してくれた人が多かった印象です」
【ダイジェスト版】県民投票音楽祭 〜Beyond the Border〜:https://www.youtube.com/watch?v=UjoeHiy03lE&t=34s
瀬:「自分は音楽祭の前から、1年間かけて県民投票の署名集めをしていました。その時は本当にキツい経験ばっかりだったんです。いろんな人達に批判されたり、参ることが多かったんですが、音楽祭の運営は心底楽しかったですね。やっぱりいちリスナーとしても楽しいイベントだったし、当日はめちゃくちゃ忙しかったんですけどあっという間に終わってしまって。人の主張を音楽通して楽しみながら、音楽を聞く感覚でメッセージを受け取っているだけなのに、こんなに違うのかと(笑)」
―前回の出演陣は、ヒップホップ勢が多かったですよね。そこも何か意図があったんですか?
ハ:「野外という場所の制限もあって、楽器を使って思いっきり音を出せる環境じゃなかったんです。ラップだとDJを通して音量調整が出来るという物理的な理由もあり、ヒップホップの出演者が多数を占めた形になりました。でもヒップホップの持つ力が良い方向に合わさって、イベントを更に盛り上げてくれたことに繋がりました。沖縄のヒップホップで歌われていることの”ムード”は、県民投票音楽祭の趣旨にもマッチしていたし、そのメッセージ性を表現できる県内バンドが思いつかなかったこともありました」
沖縄のリアルを発信するラッパーが注目されるワケ
https://ryukyushimpo.jp/style/article/entry-674419.html
―吉野さんは受験の影響で参加できなかったそうですね。県外からイベントの様子を見ていて何を感じましたか?
吉:「その場にいたかったというやるせなさと悔しさと…(笑)。でも、気持ちを切り替えて『外からの力も必要なんだ』と自分に言い聞かせて動くことにしました。というのも、私は今までオスプレイ反対の県民大会に参加したり、辺野古や高江に座り込んだこともあるし、自分にできる限りの意思表明はしてきたつもりでいました。でもオスプレイは配備されるし、辺野古や高江の工事は始まるし、どんなに声を挙げても何かが変わったって思えたことはほとんどなかった。だからこそ、沖縄の外からも一緒になって訴えかけていく力が必要だなと思ったんです。私が県外に拠点があるからこそ、そこに住む人達に沖縄の現状を知ってもらえるきっかけになれると思ったんです」
ゲームを通してロールプレイング
―昨年のフジロックフェスティバルでは『うちなービレッジ』というブースを展開しました。『沖縄のことを知ってもらう』をテーマにアートや音楽、ワークショップなどを通して参加者と対話を重ね、多くのアイディアが生まれたと聞きました。その時のお話をお聞かせください。
瀬:「昨年のフジロックでは、修学旅行生向けの平和学習プログラムに長らく取り組んでいるチームが開発した『沖縄基地問題ボードゲーム』というのをワークショップでやりました。今回の音楽祭でもこのゲームをやろうと思っています。これは沖縄の基地問題が何故こんなに様々な事情が複雑に絡み合っているのかを体感できるゲームになっています」
―ゲームのルールを教えてもらえますか?
ハ:「参加者にカードを配ります。カードにはそれぞれキャラクターが書かれていて、そのキャラになりきります。例えば『基地内に土地を持っている人』、『基地の近くでお店を経営している人』、『国防上、基地は必要と思っている人』など。何の役割かは周囲には言わずに議論を始めます。ひとしきり意見を言い合ったあとに、全員の役割を明かします。『国防』『経済』『家族』など、お互い何について話しているかこの時に分かります。このように議論はかみ合いません。問題は山ほどある中で相手に勝てそうなカードを切っているだけで、解決しようというところに進んでいない。そこで白紙のカードを渡してこの問題を解決するカードを考えてもらいます。そこでゲームは終了なんですが、一旦そこからフリートークになりそこで初めて本当の自分の意見を話しあえる場になります」
―なるほど。このゲームだと基地問題についてよくわからない人でも、参加者全員が目を揃えながら体験できて学ぶことができますね。
瀬:「ゲームにすると、役割になりきり当事者意識を持ってロールプレイングができるので、知識量に関係なく議論の場につくことができます。フジでもほとんどの参加者が県外の人だったので、あまり基地問題について詳しくない人でも身近に感じてもらえることができたと思います。またこのゲームを実際に住んでいる沖縄の人がやると、情報量も他県の人より多くて、より議論が活発になると思います」
うちなービレッジ HP
https://peraichi.com/landing_pages/view/uchina
対話を重ねるイベントに
―今回の『2.24音楽祭』のラインナップについてお話しをお聞かせください。ライブがメインだった前回と違い、今回はライブとトークイベントも盛りだくさん。出演者もロックバンド、ヒップホップ、せやろがいおじさんと幅広いラインナップとなっています。
瀬:「実はDYGLは昨年の県民投票音楽祭でもオファーしていたんですけど、当時彼らはロンドンに住んでいたので出ることができなかったんです。なので、今年満を持して出演してくれることになりました」
ハ:「DYGLのノブくんは沖縄にルーツがあるけども、彼自身は東京の生まれ。しかし何度も沖縄の問題について自分事として意見を述べてくれています。彼のように『俺は沖縄に住んではいないけど…』と気後れせず堂々とステージで意見を言えることは、物凄く希望だと思っています。あと個人的にはラッパーのMAVELがどんなライブするか楽しみ。彼はパレスチナ自治区出身のラッパーのMC GAZAが、昨年沖縄に来た時に一緒にライブに出ていたんだけど、それがめちゃくちゃ良かったんです。聴きやすい形で社会的にも言いたいことが言えるラッパーだと思うので迷わずにブッキングしました。そして、去年に引き続きトリを務めるRITTOは、県内ラッパーの中でも特に戦後の沖縄の歴史を感じさせることができる稀有な存在だと思います。ポジティブな姿勢で深く考えていくための音楽祭では欠かせない存在だと思います」
―前回の野外開催から一転、今回はライブハウスやクラブなどを使った室内の3会場で開催されますが、狙いはありますか?
ハ:「前回は『県民投票に行こう』という趣旨もあり、マイクが響く場所にいる全員をターゲットにしていたので野外で開催する必然性がありました。でも、今回はそうではなく参加者とより近い空間で『1年経ったけど、今何を思っている?』というような対話を繰り広げる形にしないと趣旨がぼやけちゃうと思ったんです。あと、野外だと運営コストが上がるので、経済的な面でも屋内開催ということにしました。予算が潤沢にあれば野外でもいいけど、我々は予算が本当の意味でゼロだから…(笑)。運営費を賄うために多くのアーティストさんの協力の元、メッセージTシャツを販売しています。デザインのテーマは、県民投票から連想することを書き手独自の感覚で表現したものです。このTシャツを通して、皆さんの生活の中でそのメッセージを身に付けて表現することもアクションの一つだと思っています。前回のイベントより、参加者には更に一歩こちらに近づいてきてもらう必要があるんですが、濃い話ができればなと思っています」
瀬:「会場の1つであるmusic live fanfareは、トークラウンジとして使用する予定です。イベントに触発されたミュージシャンの飛び入り参加も待っています」
―トークライブで話されるテーマについて教えてください。
ハ:「トークライブは5本用意しています。1つ目は石垣市への陸上自衛隊配備計画の賛否を問う住民投票の実施に向けて動いている会の人達の話。次に、糸数温子さんによる沖縄の貧困対策の話。草の根的な活動をしている市民の動きと行政がやっている動きのズレについて話してくれます。3本目は『沖縄と音楽と政治』っていうトーク、次に神戸の大学生たちが外から見た県民投票について話してくれます。5本目はせやろがいおじさんとオレンジレンジのYOHさんと、「辺野古」県民投票の会代表を務めた元山仁士郎くんの対談。トークライブを多めにしたのは、対話を通して考えを深めたいのが狙いです。同日に他にも県内のいろんな場所で県民投票に関する講演会があると思いますが、若い世代ではなかなか足を運びにくいなって感じている人も多いと思います。でもそこで話されることは知っておくべきことだし、いくつか受け皿があるといいなと思って、この音楽祭を契機としてもらってからあちこちで皆でそれぞれ学んでいけたらと思っています」
再び思い返す一日として
―『2.24音楽祭』は、今後も続けていくつもりですか?
瀬:「そのつもりです。代表の仁士郎さんが『2.24を沖縄の記念日にしたい』って言っていたんですけど、よく考えたらそのくらいインパクトのある日だったよなって思いました。彼がハンガーストライキを行った流れで県民投票が全国的に取り上げられたということもありますが、僕らの一連の動きを見てハッとさせられた人は多かったと思います。今回のイベントを通して県民投票があったことを思い返してもらうだけでもいい。この音楽祭での僕らの思いは、まずは『NO MORE BASE』という思いです。事務処理にも不手際があって、予算規模も見えないプロジェクトを血税使ってやるのってあり得ないって思っています。『全然何も終わってない』というリマインダーとして発信し続けていけたらなと思います」
吉:「記念日化というよりは、沖縄が抱えている問題として啓発できる日として掲げるのはいいけど、まだ問題は続いているので過去の出来事にするのは違うと思っています。県民投票をやって良かった点として、基地問題に対して真剣に向き合う人が増えたことだと思っています。投票に参加できない市町村が出たり、『どちらでもない』という選択肢が増えたり、いろんな問題がリアルタイムで出てくることに対して疑問に思った人も多く、そこから県民投票をより自分事として考えていく人が増えていった印象があります。今まで辺野古の問題は、当事者である沖縄の人でも難しい問題として避けられがちだったけど、投票後はそれぞれの考えを話し合えるきっかけとして機能したと感じています」
吉:「県民投票は仁士郎さんが彼なりに動いてムーブメントが広がりました。今後、沖縄の問題に対して何か疑問に思う人が一人でも多くアクションに移して形にしていけば、更に大きな動きになっていくと思います。私もこれからは仁さんの動きに乗っかるだけじゃなくて、私のやり方で想いを形にしていけたらと思っています」
ハ:「投票の結果が反映されて初めて”記念日”となるので、堂々とそう言えるようになるまでは続けなきゃいけないと思っています。これからの『2.24』はそうなるために賛成・反対派どちらともコミュニケーションを取り続けて、お互いに刺激を受けながら『じゃあ自分は何をしようかな』って考える日になってほしい。考えるきっかけすらなかったっていうことにはしたくないですね。音楽に限らず、表現方法は必ずしも一つじゃないですから。例えば『730運動』のように、交通ルールが変わっただけですが『それって何故なんだろう』という解釈は続いているわけじゃないですか。だから『2.24』がどういう日だったのかっていうのを、今後もみんなが各々理由を意味付けしていくためにも大事にしていきたいです」
「2.24音楽祭 〜Beyond the Border〜」
日程:2019年2月24日(月・祝)
会場:沖縄・CLUB CLUTCH・G-Shelter・fanfare
時間:15:00〜22:00(予定)
入場料:1000円(18歳以下無料)※当日券のみ
お問い合わせ:2.24 音楽祭実行委員会 0224okinawa@gmail.com
HP:https://224okinawa.stores.jp/
Twitter:https://twitter.com/0224musicfes
Facebook:https://www.facebook.com/0224okinawa
聞き手・野添侑麻(のぞえ・ゆうま)
2019年琉球新報社入社。音楽とJリーグと別府温泉を愛する。18歳から県外でロックフェス企画制作を始め、今は沖縄にて音楽と関わる日々。大好きなカルチャーを作る人たちを発信できるきっかけになれるよう日々模索中。